「AIとロボットが世界経済を牽引」...移民・女性・高齢者に続く第4の労働リソースに

ロボティア編集部2016年12月19日(月曜日)

 グローバル投資運用会社モルガン・スタンレーのチーフグローバルストラテジスト、ルチル・シャルマ(Ruchir Sharma)氏は、ワシントンポストに寄稿。記事のなかで、「今後、世界的に生産可能人口が減少する。高齢化時代に入れば、ロボットが人の雇用を奪うよりも、労働の重要な資源として活用されるだろう」と指摘した。

 国連のレポートによれば、世界の人口は現在の73億人から、2050年には100億人に増加する見通しである。各国の専門家は、このような人口増加が起きた時、何が起きるかそれぞれに推測している。例えば、食糧危機が訪れ、反移民主義者が国境封鎖などの声を高めると予想するものもいれば、ロボットが労働者と対立し、雇用を奪う状況になるとするものもいる。

 シャルマ氏は、このような視点に異論を提起する。世界人口が2050年までに25億人増加したとしても、重要なのは人口の絶対数ではなく人口成長率だというのが、その論拠だ。

 人口増加率は、1960年代に頂点に達した後、半分まで低下している。女性が子供を出産する数は減少しており、チリから中国にいたるまで多くの国では、15〜64歳の労働力が減少傾向にある。

 一方、医療およびヘルスケア技術の発展に伴い、人々の寿命はますます伸びている。全人口のうち、仕事を退職した高齢者が占める割合は、ますます高まっている。シャルマ氏は、そのような傾向が経済成長に障害となっているが、ロボットが多くの国で解決策を提示していると主張する。

 シャルマ氏は、経済成長は生産可能人口の増加と、生産性の向上に左右されるとする。しかし、米国の場合、生産性の向上は戦後から約半分ほどに落ち、労働力の増加率は急速に低下している。

 ドイツ、日本、韓国などの国ではすでに、生産可能人口の増加は頂点を過ぎ、発展途上国でも同じような傾向がみえている。そんな状況の中では、シャルマ氏は「高齢化時代にはロボットが答えになるしかない」と指摘している。

 中国も転換点にある。生産可能人口はもはや増加しておらず、今後、毎年1万人以上の労働力が減少すると予想されている。人口の高齢化現象は、ますますひどくなる見通しである。中国の老齢人口の割合は、米国の2倍程度速い速度で増えている。中国政府が、産業の自動化を推進している企業にインセンティブを提供するのが全く不思議ではない。

 シャルマ氏はまた、ロボットが人間の仕事を奪うという主張にも異議を提起する。例えば、スーパーマーケットのレジにスキャナが導入されたが、レジ係は減っておらず、むしろ増加していること。児童走行車が導入されれば、米国のトラック運転手が職場を失うという懸念が提起されているが、運転手は複雑になった車両に合わせて、より創造的な仕事を見つけることができるなどがそれにあたる。

 2008年以降、世界を経済危機が襲ったのにもかかわらず、G7各国で失業率が減少したという点に、シャルマ氏は注目する。日本経済は0.8%の成長率を記録したが、現在は完全雇用状態にある。ドイツ、日本などの先進国はロボットを多く導入したが、雇用市場の未来は決して悲観的ではない。

 シャルマ氏は、生産可能人口が毎年2%以上成長していない場合は、急速な経済成長が難しいと見ている。20カ国の発展途上国を対象に調査した結果、80年代には17カ国の生産可能人口が急速に増加したが、今ではナイジェリアとサウジアラビアを除くすべての国で生産可能人口の増加率が低くなっている。世界の多くの国が、女性を経済活動人口に引き込み、海外移民を受け入れようとする努力を行っているが、これは経済活動人口減少に伴う対応策と見ることができるという。

 ドイツは、高齢化社会に備えるため、2030年までに、毎年150万人の移民を受け入れなければならない。毎年7万人以下の移民を受け入れている日本でも、毎年100万人の移民を受け入れてしかるべき状況がある。しかし、移民に対する反感は大きく、各社会では軋轢の原因のひとつになっている。

 シャルマ氏は、現在、全世界的に産業労働者が3億2000万人に達しているが、ロボットはたった160万台に過ぎないと言う。ロボットの導入速度が速まっているものの、その主な仕事は生産ラインでボルトを締めたり、車のドアを塗装する仕事、つまり非知能的な作業だ。これは、知能化されたロボットはまだまだ登場しておらず、心配する必要はないという指摘にもとれる。

 シャルマ氏は、高齢化時代には、ロボットが女性、移民、高齢者の次にくる4番目のリソースになるとも指摘した。また、将来的には経済学者が生産可能人口の増加を経済成長の重要な指標とするのと同様に、ロボットの数が経済成長を判断する重要な指標になるとも主張している。

photo by Humanrobo(via wikicommons)