デンマークから生まれた協働ロボットの新鋭「ユニバーサルロボット」の誕生秘話

ロボティア編集部2015年8月30日(日曜日)

英フィナンシャル・タイムズは最近行われたイベントで、人とともに働くコラボレーションロボットが生産現場の風景を変えるという見通しを発表した。人との接近を遮断し、安全柵の中で作動していた伝統的な産業用ロボットに代わり、人と同じ空間で作業を行うコラボレーションロボットが生産現場の主役に浮上しているという分析である。

また、同業界の専門家たちは、賃金引き上げと労働力不足という挑戦に直面した産業界が、コラボレーションロボットに解決策を見出そうとしていると指摘する。現在、人件費が低かった中国、東南アジアなどに熱心に生産拠点を移していた先進国メーカーが、自国で生産ラインを再構築する傾向が現れているが、その中心にコラボレーションロボットがあるという点は見逃せない。フィナンシャル・タイムズは、これまで人間の器用さや視力に頼っていた作業をコラボレーションロボットが引き受け、工場の自動化が一層加速化されるという分析もしている。そんな、コラボレーションロボット分野にイノベーションをもたらしている企業がある。デンマーク産業用ロボットメーカー「ユニバーサルロボット(Universal Robots)」だ。

ユニバーサルロボットは、コラボレーションロボットを引き連れ、産業用ロボット市場にイノベーションの風を起こしている。ユニバーサルロボット社製の産業用ロボットは現在、ジョンソン&ジョンソンやフォルクスワーゲンなどの製品製造工程において使用されていることで有名である。

まだ企業の外形は小さいものの、その潜在力は非常に大きい。ユニバーサルロボットは 2005年にエンジニア出身であるエスベン・オステルガルド氏、キャスパー・ストイ氏、クリスティアン・カーソウ氏の3人によって創業された。彼らは、デンマーク・ シダンスク大学で共同研究を進めながら、やがて産業用ロボット開発の道に足を踏み入れる。

3人は産業用ロボット業界の因習を引き継ぐよりも、新しい技術革新の道を模索した。イノベーションは産業用ロボットに対する素朴な疑問から始まった。

「なぜ産業用ロボットは、重く高価で、扱いが難しいのだろうか」。

これまでの産業現場で使用されたロボットやオートメーションシステムは、あまりにも重いうえ操作も容易ではなく、現場では非常に“特別な扱い”を受けた。安全柵で囲まれてボルトを打ち込み、しっかりと管理されるのが一般的であった。しかも使い方が難しく、専門エンジニアが労力と時間を割き操作方法を身につけてきた。

そのため一度設置されて産業用ロボットを別の場所に移動するのは容易ではなかった。元の用途から他の用途に機能を切り替えるのはなおさら困難であった。また、丈夫な金属で作られたロボットアーム(マニピュレータ)は人の接近を把握できず、危険を与えるという事態も度々発生した。世界各地では、産業用ロボットにより人命を落とした工場従業員の話が後を絶たない。価格も法外に高く、投資コストを回収するためには多くの時間を割かなければならなかった。結果的に、産業用ロボットを導入するためには、経営陣の大きな決断と十分な余力資金が必要とされた。

ユニバーサルロボットの創業者たちは、そんな特徴を持った産業用ロボットについて「中小企業やベンチャー企業が導入するのは現実的に無理」という結論に達した。そこで、扱いやすいロボット、そして中小企業でも簡単に導入する安価なロボットを発明した。それが、「UR5」に代表されるコラボレーションロボットだ。

ユニバーサルロボットは、2008年12月の最初のロボットであるUR5をデンマークとドイツで発売。産業用ロボット市場に出馬を表明した。創業後、すでに4年近い時間が経過していたが、これは既存の産業用ロボット業界の固定観念と開発戦略を覆すことが容易ではなかったことを意味するものでもある。

ユニバーサルロボットが販売開始したコラボレーションロボットはサイズが小さく、重量も軽いので移動しやすく、プログラムも容易である。同社が市場に出したコラボレーションロボットは合計3つ。デスクトップロボット「UR3」、柔軟なロボットアームが特徴的な「UR5」、最も大きなロボット「UR10」だ。

すべて6軸ロボットアームを有しており、本体重量はそれぞれ11㎏、18㎏、28㎏。また、UR3、UR5、UR10モデルは、それぞれ3㎏、5㎏、10㎏のものを移動することができ、ロボットアームを伸ばすことができる半径はそれぞれ500㎜、850㎜、1300㎜となっている。特にUR3は作業半径が小さいため、非常に限られたスペースでも人とコラボレーションすることができる。卓上型ロボットという言葉に象徴されるように、 PCのように、ロボットをオフィスのデスクに設置して使うことができる。

しかも今後は、様々なアプリケーションと連動して、ロボットの用途を拡張できるものと期待されている。これらのコラボレーションロボットは、パッケージング、積載作業、組立、モノの移動、溶接および接合、製品の品質検査、分析、およびテストなど、さまざまな作業に活用することができる。

ユニバーサルロボットは、産業用ロボットの価格革命も牽引している。最も廉価な低価格モデルであるUR3は、約240万から360万円。価格が安いので投資資金の回収期間も短い。資本回収期間は平均195日で、産業用ロボットの中で最も短いことが知られている。言い換えれば、半年ほどで投資コストを回収することができるという意味になる。

これで、価格が高いため購入をためらっていた中小メーカーや小規模のベンチャー企業も、コラボレーションロボットを導入できる条件が用意されたわけだ。現在、世界50カ国以上に4000台ほどのユニバーサルロボットが供給されており、80%ほどのロボットが安全柵なしに、労働者と同じ空間で作業してるとされる。ちなみに、ドイツやスイス、そしてこのデンマークのユニバーサル・ロボットをはじめとする産業用ロボット業界の主な顧客は中小企業となっている。日本では大企業を中心に納品されているイメージが強いが、技術革新と低価格化で買い手の裾野も広がってきているのだ。

しかも、ユニバーサルロボットの製品は中小企業だけで使われているわけではない。BMW、フォルクスワーゲン、ルノー、ジョンソン&ジョンソンなど、グローバルメーカーもユニバーサルロボットのコラボレーションロボットを導入し、生産現場での技術革新を図っている。フランス・クレオンにあるルノーの自動車工場では、ユニバーサルロボット社製のロボットをエンジンのネジを締める工程などに投入している。ロボットを人の手の届かないところに投入しているのだ。

同ロボットは、自動車部品が正しく整備されたかチェックする作業も行うことができるという。ルノー車の関係者は、「ユニバーサルロボットは、重量が軽いので、ロボットを簡単に別の場所に移動して再設置することができる」と話し、「今年末までに導入台数を2倍に増やす計画だ」としている。現在、クレオンのルノー工場では、15台のユニバーサルロボットが稼働している。

ユニバーサルロボットの成長は非常に速い。2014年には、前年比70%増の3600万ドルの売上高を達成した。利益は前年比2倍以上増加した500万ドルだ。今後の成長見通しも明るい。中国が最大のロボット市場に浮上し、中国企業と中国に進出したグローバル企業のコラボレーションロボット導入が大幅に増加すると予想されているからである。ユニバーサルロボットが中国に早期に支社を設立したのも、中国市場の潜在力を高く評価したためだ。

先進国でもコラボレーションロボットが次々と導入されており、自国の生産ラインを再構築しようとする試みが積極的に行われる見通しだ。特に、今年上半期に発売開始された小型コラボレーションロボット「UR3」に対する期待感は大きい。エンリコ・クロー・イバーセン代表は「上海、シカゴ、ハノーバーなど開かれた展示会でUR3ロボットを披露したところ、業界関係者から大きな関心をいただいた」と売上向上への期待感を表明している。

ユニバーサルロボットは、昨年から2017年まで毎年2倍以上の成長目標を打ち出している。 2017年の売上高目標は1億5000万ドルだ。売り上げの増加に伴い、オフィスを世界展開して、従業員も追加して雇用する計画である。今年は米国中西部、西部地域、南アメリカ、ヨーロッパにオフィスを開き、代理店(ディストリビューター)を増やす意向だ。最近では、オセアニア地域の営業基盤を強化した。オーストラリア現地の代理店であるADDEと協力してオセアニア市場での攻勢をより強化する計画である。アジア地域営業力も強化している。去る2月、アジア地域で初めてシンガポールに支社を設立した。ユニバーサルロボットはすでに、デンマーク30代輸出企業のひとつとして選定されるほどに輸出依存度が高い企業でもある。

またユニバーサルロボットは最近、重要な分岐点を迎えた。米・IT企業テラダイン社に買収されたのである。ユニバーサルロボットは、創業直後からシダンスク・イノベーションから投資を受け、2008年にはデンマーク国家成長ファンドからの投資も受けている。国家成長ファンドは理事会のメンバーとしても参加し、積極的に経営に関与しているようだ。

そのような状況で、テラダインがユニバーサルロボットを2億8500万ドルで買収した。テラダイン側は2018年までに、ユニバーサルロボットが売上目標を達成すれば、追加で6500万ドルを支払うという契約内容も締結したようだ。
テラダインの資本投入で、ユニバーサルロボットは新たな飛躍のチャンスを迎えている。ちなみに、テラダインはコンピュータ基盤の自動化テスト機器の専門メーカーで、半導体、無線通信機器、データ記録装置など、テスト自動化製品を供給している。

今回の買収に関連して、テラダインのマーク E. ジャギーラ代表は「ユニバーサルロボットは急速に成長しているコラボレーションロボット市場を牽引している。テラダインのシステムおよび無線テスト分野のノウハウと、ユニバーサルロボットの産業用ロボット開発力を連携させて、強力な成長プラットフォームを構築する」とした。

エンリコ・クロー・イバーセン代表も、「両社の結合が産業用ロボット市場に革新をもたらし、ユニバーサルロボットが業界のゲームチェンジャーとして機能するために貢献するだろう」と話し、テラダインの世界的に証明されたエンジニアリング能力と、健全な財務構造が、ユニバーサルロボットの成長に土台になると予想しているようだ。
テラダインは現在、1億ドル規模のコラボレーションロボット市場が毎年50%以上成長すると予想している。テラダインとの提携を経て、ユニバーサルロボットは市場でより大きな成長を遂げると期待されている。

(ロボティア編集部)