【疼痛治療最前線】VRはモルヒネより鎮痛作用アリ?医療費削減にも期待

 その仮説を確かめるべく、研究者らはまず、熱い火とは対照的な真冬の情景が展開されるVRプラットフォームを用意した。そのVR用ヘッドセットを装着すると、目の前は銀世界であり、一面に雪が降り積もり、非常に明るい表情の雪だるまとともに真冬を疑似体験できるようになっている。

 一見、痛みの根源から意識を遠ざけることで痛みを感じなくなるという仮説は、VRに限らず、テレビゲームなどの遊びでも通用しそうである。そこで、重度の火傷を負い、肌移植のため5~6部位を除去後、疼痛症状が出ている2名の患者を対象に、一方には例のVR用ヘッドセットを装着させ、もう一方には任天堂のテレビゲームをプレイさせ、その状態のまま経過を観察した。なお、両患者に対しオピオイドの処方も並行して行った。

 その結果、VRを体感した患者はビデオゲームで遊んだ患者に比べ、火傷による損傷がひどいにもかかわらず、処置中の痛みが軽減され得ることが分かった。さらに、VR装着時において脳や神経内で起こっていることを詳しく調べるために、別の健康な被験者を対象に、温度による痛みの刺激を与え、VRを通して雪世界を疑似体験させたうえでfMRI検査(MRI装置を使って無害に脳活動を調べる方法)を実施。するとVRを体験した被験者は体験しなかった被験者に比べ、痛みに関連して活性化する脳の部位が圧倒的に少なかったという。

 VRの疼痛治療への有効性については、ブルック軍人メディカルセンターの外科チームでも検討された。イラクで銃弾を受け火傷を負った軍人を対象にVR実験を行ったところ、雪世界のVRに没入している間には痛みが著しく減少したそうだ。

 現時点ではエビデンスが少なく、VRが必ずしも火傷治療後の疼痛管理に有効であるとは言い難い。今後、大規模集団での臨床試験を経て、火傷患者のQOL改善の可能性が見出されるとともに、疼痛治療の医療費を巡る問題が解決されることを願う。

大澤法子

記者:大澤法子


翻訳者・ライター。1983年、愛媛県生まれ。文学修士(言語学)。関心分野は認知言語学、言語処理。医療・介護分野におけるコミュニケーションに疑問を抱いており、ヘルスケアメディアを中心に活動中。人間同士のミスコミュニケーションに対するソリューションの担い手として、ロボット・VRなどがどのような役割を果たし得るかを中心に追及。

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