映画『エクス・マキナ』 から考える ロボット・人工知能の未来と現実

ロボティア編集部2016年11月10日(木曜日)

 ロボットや人工知能に対する考え方は日本と欧米で大きく異なる。アトムやドラえもんを愛する感情とターミネーターやHAL2000に支配される恐れほどの隔たりが、そこにはある。そして未知の存在に対してどちらの感情を抱くことが正しいのか考えてみて欲しい。

 例えば、人間の感情を理解する人工知能があると仮定する。"それ"に心惹かれる青年と、それを廃棄して新しい人工知能を作ろうとする天才技術者がいるとしたら、あなたは青年と技術者のどちらに異常性を感じるだろうか。そして、その人工知能が美しく無垢な容姿をしていたら、あなたのその判断はどう揺らぐだろうか。実はこの質問、ロボットや人工知能を研究している人たちにとって、とても重要な現実の課題なのだ。

 この映画のテーマのひとつ「チューリングテスト」は実在する。1950年にアラン・チューリング氏が考案した人工知能の学術分野では有名な試験だ。審査員は画面に写された文字で相手と会話し、相手が人間かAIかを判定する。LINEやMessengerアプリでチャットしている相手が、本物の人間か、コンピュータなのかを当てるテストと言えば解りやすいだろうか。30%以上の審査員が判定を誤り、コンピュータを人間と判定した場合、人間と同様の思考や知性を感じる「AIとして合格」となる。2016年秋の時点で合格したのはわずか1件。その1件も合格に異を唱える識者が多く出ている…それほどにAIが人間と同じ振る舞いをするのは現実的には困難なのだ。

 この映画に登場するヒューマノイド「エヴァ」が誕生するためには、人工知能とロボット技術の両方が革新的な進歩を遂げなければ実現しない未来の夢だ。どれだけ遠い未来なのかは解らない。

 人工知能の研究はより人間の脳に近い方法で考え、物事を判断し、機械みずからが学習する術を生み出した。ソフトバンクロボティクスの白いヒト型ロボット「Pepper」は家族の一員になることを目指して開発され、人間の喜怒哀楽の感情を読み、ロボット自身も感情を持つ開発が進められている。これは東京大学の教授によって仮想の内分泌ホルモンを制御することで実現している。

 東京大学の別の研究室は今年の夏、「オルタ」という上半身だけの機械人間の実験展示を、マツコロイドを生み出した大阪大学の石黒研究室と共同で行った。オルタの顔は表情を持ち、肘から手の先にかけては人工の皮膚をまとっているが、腕や身体、個頭部は機械が剥き出しだ。ニューラルネットワークは使われているが、動きは予めプログラミングされたものではなくランダムに動作する。この研究のテーマは「生命とは何か」、機械であることが明らかな機械人間に対して私達はどう感じるか、「生命を感じることができるか」だった。

 エヴァ誕生を目指して研究は日夜続けられているが、誕生の前だからこそ私達は考えてみる必要がある。エヴァのようなAIヒューマノイドが誕生したとき、人間はエヴァに愛を感じるのだろうか、そしてエヴァは人間を愛するのだろうか。そして、人間と全く同じ心と身体、そして自由を欲しがるのだろうか。この映画がチューリングテストだとしたら、本当の審査員はあなただ。

■執筆者プロフィール
神崎洋治(こうざきようじ)

ロボットや人工知能などに詳しいITジャーナリスト/ライター。著書は「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社刊)、「図解入門 最新 人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム刊)など多数。取材や連載を通じて、コミュニケーション・ロボット業界やディープラーニングをはじめとした人工知能技術に精通する。

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