子供の感情をAIが分析…学習意欲を高める教育支援ロボ「MONICA」登場

大澤法子2016年12月15日(木曜日)

 近年、教育業界でも人工知能ロボットが台頭しつつある。教育業界で活躍するロボットと言えば、日本国内最高峰である東京大学の入試問題に挑む「東ロボくん」が記憶に新しい。一方、スペインの国立遠隔大学のイムベルノン・クアドラド(Imbernòn Cuadrado)氏率いる人工知能研究チームが手がけているのはこうした生徒との競争心を煽るロボットではない。生徒の学習をサポートする教育支援ロボットだ。現在はロボット支援技術基盤プラットフォーム「モニカ(MONICA)」の開発がひとまず終了した段階にあり、将来的には幼稚園から高校生まで幅広い年齢層への適用を見込んでいる。

 イムベルノン・クアドラド氏らは、教育用ソフトウェアに翻弄された子供の感情状態を検出し、それによってロボットによる教育への介入を果たすことを目論んでいる。これは「特に幼い子供の学習能力は感情状態に影響されやすい」という経験に根差した知見から導き出された打開策であるという。

 ここで言う感情とは、特定の感情を指すわけではない。「集中する」「気を逸らす」「受身的」といった3つの認知的状態を特定することに重きを置いている。教育用ソフトウェアを通じて子供のキーボードの打ち方や口の動きを読み取ることによりこれらの認知的状態を予測後、真っ当な教育的介入を選択するアルゴリズムへとリンクする。最終的には、ロボットの言葉やジェスチャーを通じて特定の学習対象への興味や動機付けが促される仕組みとなっている。

 異なる認知的状態を示した小学生のボランティア2名を対象に行った実証実験では、両者ともにロボットによる誘導を楽しんでいたという。ロボットと接している時には決してストレスを感じている様子はなく、普通の教師から多くのことを学んでいる時のような精神状態であった。

 研究の進捗状況および今後の方針について、イムベルノン・クアドラド氏は「これは第一歩に過ぎない。次なるステップはカメラやマイクを用いてより複雑な感情状態を特定することである。長期にわたる実証実験を通じて、教育支援ロボットが子供の学習能力に対してどのような影響を及ぼすのかどうかを結論づけたい」とコメントしている。

 日本国内では教員の1日当たりの勤務時間は10時間22分(2015年1月現在)と過労死認定基準を大きく上回っており、社会問題となっている。深夜まで続く仕事に身体が悲鳴を上げ、うつ病を発症した挙句、教育現場を離れる教師は後を絶たない。人工知能ロボットの関与によって教育業界に蔓延る問題がどう解消されていくのかにも注目である。

photo by Stuart Caie (via flickr)

大澤法子

記者:大澤法子


翻訳者・ライター。1983年、愛媛県生まれ。文学修士(言語学)。関心分野は認知言語学、言語処理。医療・介護分野におけるコミュニケーションに疑問を抱いており、ヘルスケアメディアを中心に活動中。人間同士のミスコミュニケーションに対するソリューションの担い手として、ロボット・VRなどがどのような役割を果たし得るかを中心に追及。

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