中国EC最大手アリババのジャック・マー会長は、6月20日から2日間にかけて米デトロイトで開催された中小企業フォーラム「ゲートウェイ17(Gateway '17)」で、次のように話したという。
「人間の最初の技術革命は第一次世界大戦を起こし、2回目の技術革命は第二次世界大戦を引き起こした。3回目の次技術革命が進行中だが、人工知能が人間の仕事を減らすことで、第三次世界大戦の火種になるかもしれない。(中略)しかし人間と人工知能の戦いで、最後の勝者となるは人間だろう。人工知能には、人間が持っている知恵や経験がないからだ。人工知能は知識を学ぶことができるが、心を持つことは困難だ。人工知能に人間ができない作業をできるようにするのであって、人間と同じことをさせるために開発するわけではない」
人工知能が社会に大きな変化を促すことについて、マー会長は決して否定しない。が、その未来への見通しは楽観的だ。ゲートウェイ17では、米メディアに対し次のように語っている。
「人工知能のおかげで私たちの労働時間が短くなり、もっと旅行をできるようになるだろう。今後30年以内に、人々は1日4時間、週に4日だけ働く日が来る。私の祖父は、野原で一日16時間を仕事した。私たちは1日8時間働いている。週5日だ。(中略)ただ、未来への道は平坦ではないし、痛みを伴うかもしれない。何か迫ってきているのであれば、私たちはそれを知り準備すべきだろう。“問題がまだ起きていない時に、屋根を修理しなければならない”というのが私の信念だ」
マー会長の先見の名は、すでに世界中に広く知れ渡っている。彼が世界的な起業家に成長する過程を見ると、奇跡と言ってもいい。マー会長の若かりし頃は、挫折の連続だった。大学の試験にも二度落ち、就職活動も「背が小さい」という理由で拒絶された。社会的に“可能性”がないとされた青年だったのだ。
しかし、彼には他の人より優れている点がふたつだけあった。英語と積極的な性格だ。その得意な英語を使い、杭州電子科技大学に英語講師として就職した。また、その開放的かつ陽気な性格が、彼を“名講師”にした。
ただ彼の夢は英語の先生ではなかった。1995年には大学を離れ創業。目をつけたのは、インターネットだった。当時、インターネットは中国人にとって見知らぬ代物だったが、「金の卵を産むガチョウ」になるとマー会長は直感していた。それでも、教師経験しかないマー氏にとって、事業を軌道に乗せるのは容易ではなかった。初期には、失敗を重ねたという。
やがて、中国政府が主催するインターネットのネットワーク業務を引き受けることになったマー氏。政府の仕事は名声もお金も手に入らず、苦労だけが先行した。しかしそれは同時に、ECビジネスの可能性を感じる経験ともなった。政府の干渉にしびれを切らしたマー氏は、1999年にその仕事を辞め、同僚とともにアリババを設立した。
ほぼすべてのスタートアップ企業がそうであるように、アリババも苦戦した。投資誘致に乗り出したが門前払いが続き、オフィスの家賃やスタッフの給料を賄えない日々が続いた。それでもマー氏はあきらめなかった。説得の末、ゴールドマン・サックスの投資誘致に成功。2000年には、ソフトバンクから2000万ドルを誘致した。その後、急成長を遂げたアリババは、2005年にはYahooチャイナを買収。2007年の香港上場に続き、2014年にはニューヨーク証券取引所に進出し、Amazonに匹敵するグローバルEC企業として世界にその名を知らしめた。
起業家としての夢をかなえたマー氏は、より大きなビジョン=社会的責任を果たすことに力を注ごうとしている。2016年に中国の起業家クラブ(CEC)会長に選任された後、座談会で次のように話したという。
「あなたが100万元を持っていれば、それはあなたのお金だ。しかし、財産が2000万~3000万元になれば、それはもはやあなたのお金ではない。社会があなたに任せたお金と見なければならない」
マー氏は人工知能とビッグデータなど、第4次産業革命は人間に幸せを与えると信じている。一方で、政府や企業、そして個人がそのような世界を作ろうと強く努力しなければ、これまで以上に痛みを伴う未来が来るかもしれないとも警告を鳴らしている。
何もない状況から世界を代表する企業家になった人間が、人間の可能性を信じ、また同時に来る時代の危険性を予告してもいる。その事実に、現代を生きる人々はどのように接するべきだろうか。
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