「我々はロボットを愛するだろう」--。MITメディアラボの研究者ケイト・ダーリン(Kate Darling)氏は、ロボットとの生活が人間をどのように変えるのか研究している。また最近では、ウォータールー大学で行われた討論で、今後、人間の行為の多くが、ロボットとの相互作用によってさらに変化していくだろうと予想した。
カナダで開発されたヒッチハイクロボット「ヒッチボット(Hitchbot)」が、米フィラデルフィアで破壊された際に胸を痛めた人が多くいたこと、また交通事故に遭ったロボットの葬儀を行った軍人のエピソードは、創造物であるロボットに人間が深く愛着を抱けている証明だとダーリン氏は説明する。
ダーリン氏は、ペッパーなどコミュニケーションロボットが続々と発表されるなか、それらロボットが人間の感情にどのように触れ、また変化させるか、真剣な議論が必要だと強調している。
「私たちの脳は、物理的な空間で起こる作用に対して、その意図を把握しようとする傾向がある。その傾向は、私たちの目に相手が自律的であるように見えるようにする」(ダーリン氏)
つまり、人々はロボットが生きていないことを知りつつも、ロボットが行う行動に反応してしまうということだ。現在のコミュニケーションロボットは、各種センサーや人工知能を搭載しており、人間の心の状態や動き、音や顔の表情などを読み取るように設計されている。そのため、人間側が“彼ら”により多くの意味を与える時代が、すぐそこまで来ているというのが、ダーリン氏の主張だ。
ダーリン氏は、より多くのロボットが家庭、職場、学校、病院、老人ホームなど社会空間に配置されることにより、その影響が拡大する時代はそう遠くないはずであり、「我々は人間の行動にロボットが良い、もしくは悪い影響を与える『人間-ロボット相互作用時代』に生きている」とその状況を定義する。
ダーリン氏はまた、日本で開発されたペットロボット「パロ(PARO)」や、物乞いロボットなど、人間の心がロボットによって刺激されたり、平穏になった例についても言及した。ロボットには、そうした順機能(集団や制度の維持やその目的に対してプラスに作用する機能)があるというのだ。
一方、暴力性や性に対する問題において、ロボットがどのような役割を果たすかについては、意見を保留している。例えば現在、セクサロイドが普及すれば、小児性愛者の犯罪を防ぐことができるという主張がある。一方では、むしろ小児性犯罪に鈍感になるおそれがあるとの反論がある。暴力についても同様だ。ダーリン氏は「実寸大のロボットが人間に対する暴力を抑止するのか、もしくは暴力に対して人々を鈍感にさせてしまうか」という問いを残してもいる。そして自身は、この問題について現段階では「全く知ることができない」と吐露した。
彼女が提起した『人間-ロボット相互作用時代』には、人間とロボットの関係性はどう変化していくのだろうか。注意深く見守る必要がありそうだ。
photo by katedarling.org