大きなイベントのたびに、その参加者数をめぐる論争が発生する。例えば直近では、1月20日にワシントンDCのナショナル・モールで行われたドナルド・トランプ大統領の就任式がある。参加者の数を取り巻いて、トランプ政権側とメディア間の激しい論争が繰り広げられた。
米ニューヨーク・タイムズ紙は、英マンチェスターメトロポリタン大学所属の2人の科学者の分析結果を引用。就任式当日、ピーク時間帯の参会者数を約16万人と推計した。一方、 ワシントンポストなど、他のメディアは参加者数を約25万人と報じている。
一方、トランプ政権側の主張はまったく異なった。トランプ大統領は21日、中央情報局(CIA)を訪問した席で、記者たちを「地球上で最も不正直な人間」と糾弾。前日に行われた自らの就任式参加者数が、過去最高の150万人に達したと主張している。
このような数の主張の誤差にはもちろん、政治的な意図が隠れているはずである。一方、絶えず動く観客の数を正確に把握することが容易ではないという、単純かつ物理的な事情もある。そのため、世界各国ではこのような議論が、絶えず発生することになるのだが、最近では正確な集会参加者を把握するための手段として、人工知能(AI)が注目を集めはじめている。
米メディアの報じたところによると、米セントラルフロリダ大学の科学者たちは、2013年から集会に集まった群衆の数を把握するため、人工知能の能力を向上させているところだ。現在、約±30%の誤差水準まで技術水準が向上しており、その誤差も徐々に減少しているという。
セントラルフロリダ大学のコンピュータ映像研究センター所長ムバラク・シャー(Mubarak Shah)教授は、「(開発中の)人工知能は、動くイメージを認識する優れた能力を持つ」とし、人工知能特有の方法で数十万、何百万人の観客の数を正確にチェックできると語る。
この参加者数を把握する技術には、人工知能技術の一分野である機械学習(マシンラーニング)が採用されている。人工知能に群衆の映像を提示・学習させ、コンピュータの高速計算能力を活用し正確な数値を算出するように努める。
シャー教授は「人工知能がすでに人の能力を超えた」とし、「迅速かつ正確にイメージを解析する能力を向上させている(中略)参加者数の議論を(しばらくすれば)“寝かしつける”ことができるだろう」と予想している。
これまで、クラウドサイエンティスト(crowd scienctist)は、正確な群衆の数を把握するために、人の数をいちいち数えるのではなく、特定の空間を満たす人の数を基本単位とし、それを比例させた数を全体的な規模として推定してきた。
動く人々の数をすべて数えるのはおおよそ不可能であり、たとえ可能だとしても多くの時間がかかる。そのような問題を、セントラルフロリダ大学が開発する人工知能が解決しようとしている。
セントラルフロリダ大学の人工知能が群衆の数を数える方法は、既存の方式と類似している。空中から捉えた全体の映像を細分化して、特定の区域内にいる人の数をチェックした後、全体の数を推定していく方法を採用している。ただ、これまでの技術と異なる点は、そのスピードにある。
シャー教授は「(人工知能は)驚くべき速度で観客数を集計している。精度を上げれば、ほぼ完璧な分析能力を確保することができるだろう」と予想している。現在、このような人工知能技術は、いくつかの国で活用されはじめてもいる。
サウジアラビア政府は毎年、メッカを巡礼する信者の数を正確に集計するために、この人工知能を導入した。カタールも、2022年のワールドカップの観客数を集計するため、セントラルフロリダ大学の研究を支援している。
研究チームは現在、正確さ上げるために、人工知能が分析している映像データを多層化しているところだ。最近の報告書では「重複分析プロセスが、人工知能の機械学習能力を大幅に強化している」と述べた。
研究の障壁となっているのは、人工知能の能力というよりも、正確な映像を確保する手段の方である。イベントや集会では、セキュリティのためドローンなどを使った航空撮影が難しい。撮影が許可された場合でも、角度をなるべく垂直にしなければならない。というのも、斜めから撮影すると、全体の群集の数を数えるために問題が発生する。空撮映像の画質や解像度を高めることも解決すべき課題のひとつだ。
なおセントラルフロリダ大学の研究チームは、正確な映像を確保するために「アマゾンメカニカルターク(Amazon's Mechanical Turk=アマゾンのウェブサービスのひとつ。人材提供サービス)」を活用する案も検討している。
Photo by James Cridland