ロボット大国目指す中国…サービスロボット需要は莫大

河鐘基2017年3月23日(木曜日)

 中国に猛烈な勢いで“自動化=オートメーション”の波が訪れている。世界第一位の産業用ロボット市場になって久しい事実が、それを裏付ける。

 中国国内では、2014年に約5万7000台、2015年に約6万8000台の産業用ロボットが、それぞれ販売された。2015年には、全世界的に合計約24万8000台が販売されたが、中国はそのうち36%を占める販売規模となった。また、2016年には前年を大きく上回り、販売台数は約8万台に迫るとの分析もある。

 工場の自動化のものさしとなる「ロボット密度(労働者1万人あたりの産業用ロボット普及台数)」だけ見れば、2015年の段階で36台と、まだまだ日本(305台)や先進諸国に遠く及ばない中国。ただ政府の積極的な後押しもあり、産業用ロボットの普及台数、そして工場の自動化は着々と進んでいる。深セン市ロボット協会・畢亜雷秘書長に話を聞いた。畢秘書長は、中国のロボット産業事情について、次のように説明する。

「中国政府および企業が産業用ロボットの導入、そして工場の自動化を推し進める背景のひとつに、人件費の高騰があります。給与が上がり、雇用主側が求める条件で人材を求めることが難しくなった。その埋め合わせを、ロボットで行おうとしているのです」

 中国が、安価で豊富な労働力に満ちた国であるという逸話は、すでに昔話だ。現在、急激な賃金上昇による人手不足が深刻な中国企業は多い。約10年前、中国南部で始まった労働力不足は、近年、東部沿岸都市部を経て徐々に内陸まで拡散している。特に熟練技能工の不足は深刻。中国人力資源・社会保障部が公表したところによると、13年時点で中国製造業の熟練技能工の不足人員は400万人にのぼるとの統計もある。中国政府、そして企業からすれば、産業用ロボット導入は人件費の上昇を解決するカギとなる。

 一方、中国ではもうひとつのロボット産業にも注目が集まっている。サービスロボット分野だ。サービスロボットとは、工場以外の社会空間で人間を支援するロボットの総称で、近年、日本をはじめ世界各国で新しいビジネス分野として注目を浴びている。日本では、掃除用ロボット「ルンバ」や、コミュニケーション用ロボット「ペッパー」がすでに有名だが、今後、医療、介護・福祉、ヘルスケア、警備、受付・案内、荷物搬送、移動・作業支援、食品加工、物流、検査・メンテナンス、調理・接客、教育、防災、趣味など、あらゆる領域での活用が期待されている。

 中国の実情としてはまず、高齢者を支えるテクノロジーとして、家庭用ロボットの需要が高まりつつある。畢秘書長は言う。

「高齢化に備え、家庭用ロボットの開発企業が増えています。中国では60歳以上の高齢者が、すでに2億人に達している。高齢化問題は深刻です。またそのスピードも上がってきており、現在では毎年800万人以上のペースで増え続けています。2020年までに2億5500万人、2030年には4億を超え、2050年には4億8000万人に達するとも言われています。しかしながら、そのときに介護ができる年代層にはひとり子が多く、自分の子どもの世話や仕事で手一杯になってしまう。そのため、高齢者のパートナーとして家庭用ロボットのニーズが高まっているのです」

 家庭用ロボットのニーズを支えるのは高齢化だけではない。畢秘書長は続ける。

「統計によると、中国には7000万人ほどの留守児童(都会へ働きに出た両親と離れて農村で暮らす児童)がいると言われており、親子のコミュニケーション不足が問題になっています。家庭用ロボットが児童の孤独感を減らし、情感を与え、同時に親の仕事と家庭の両立を手助けする。そういう未来像が望まれています」

 高齢者が2億人、留守番児童が7000万人――。想像を絶する膨大な人数だ。中国では、経済的、社会的課題の双方が産業用およびサービスロボット需要に直結していることになる。畢秘書長は、「中国でもいずれサービスロボット市場が、産業用ロボット市場を上回る可能性がある」とも付け加えた。それは、日本や世界の関連団体および大手市場調査の見解と似た見通しである。

 中国のシリコンバレーと呼ばれる深センでは、サービスロボットの開発に従事する人々の姿を目撃することができる。深センには、高度な教育を受けられるオンライン大学や、インキュベーター施設が日を追うごとに増え続けているのだが、資金や情報を調達し、新時代のロボットを開発することに情熱を傾けている人々のほとんどは、高度な教育を受けた20~30代の若者たちだった。彼らは楽観的に、そして現実的に、ロボット大国化する中国の未来像を語っていた。

 欧米や日本のメディアは、「中国がロボット大国化するのは、まだまだ難しい」とそれぞれに評価している。ただ、産業用ロボット分野に比べて、今後成長が期待されるサービスロボット分野では、中国と世界各国のビジネス的アドバンテージはほとんどない。そればかりか、中国は圧倒的な人材の数、資金の量、そしてスピードで、新しいロボットビジネスの芽を育てはじめている。

 世界の評価が覆され、ロボット大国・中国が現れる日――。それは、僕らが考えているよりも、ずっと近い未来のことかもしれない。

■本原稿は「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則 (扶桑社新書)」の内容を一部、再構成したものです

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。