韓国ロッテがレジなし店舗「スマート・ショッパー」採用...小売業界の変革を主導

ロボティア編集部2017年5月22日(月曜日)

 小売業界では人工知能やビッグデータを活用した「スマート化」が注目され、新たなコンセプトやビジネスモデルが次々に打ち出されている。しかし実店舗では、消費者が商品を購入して持ち帰るという本質的なプロセスに変化がなく、業務環境や外部周辺の環境に対してのみスマート化が行われているという側面があった。

 しかし昨年には、韓国で次世代型ショッピングモデルを反映した実店舗がついに登場。一方、米国ではすでに「レジなしスーパー」が話題を集めており、今後、小売業界に変革の風が吹きそうな気配だ。

 2016年10月、韓国のSKテレコムは、ロッテ百貨店盆唐店で、レジなしショッピングと銘打った「スマート・ショッパー」および周辺システムを商用化した。

 ロッテ百貨店のスマート・ショッパーを利用するには、まずロッテのメンバーズカードが必要。このメンバーズカードを店頭入口にある端末に通すことで個人情報を読み取る。なお、端末にはスキャナーのような端末機器がセットされており、カードを通すと、電子パネルには個人情報の読取や利用方法の案内、配送不可商品に対する案内事項が表示される。

 ここで、すべての案内事項に「同意」ボタンを押すと、準備完了。顧客はこのスキャナーを手に取り、商品のバーコードをかざしながらショッピングを進めて行く。店内には複数の電子パネルが多数設置されており、自身が購入した商品をいつでもリアルタイムで確認できる。

 商品を選択したあとの決済もまた、設置された端末で行う。現金またはカード決済によって支払った後、日にちや時間を指定した上で自宅への配送が可能だ。

 SKテレコム側によると、今回のサービス提供において最も重点をおいたのは、スマート・ショッパー本体機器のハードウェア開発だという。商品に関する情報や購入情報をすべて管理するスマート・ショッパー本体にとって、なんらかの不具合や外部の衝撃によるダメージは致命的である。そのため、ハードウェアの安定性をとことん追求・強化したとのことだ。

 その注力ぶりは、スマホアプリを提供するのではなく、専用機器を自社開発したという点からも見受けられる。韓国では、スマホの普及率が85%にも達し、世界最高水準を誇るが、同社はスマホをかざすことで読み取る仕組をあえて提供しなかった。というのも、スマホやモバイル端末でのスキャンだと、どうしても読み取るのに時間がかかってしまい、一度で商品を正常に読み取ることが難しいためだ。

 また、モバイル端末を使った買い物中に電話やメールが来た際には、その間どうしてもショッピングを止めざるを得ない。SKテレコムはスマート・ショッパーの開発によって、こういったネガティブな側面を解決し、よりスマートなショッピングモデルを提供することに成功した。

 スマート・ショッパーを導入したことで、顧客だけでなく、店舗側にも多くのメリットが生まれている。まず挙げられるのは、「空間の効率化」だ。バーコードを読み取れば済むので、売り場に多くの商品を並べる必要がない。ひとつの商品が幅をとらない分、多くの商品を取り揃えることができる。

 そのうえ、レジスタッフや商品陳列のためのスタッフも不要。大幅な人件費の削減にもつながっている。また、購入後の商品は家まで配送できるので、購入品が多いことを理由に車で来店する必要がない。したがって、駐車場エリアは自然と縮小される。そこに公共施設やアミューズメント施設を拡充することで、複合的な商業施設として店舗を活用していく方向性も模索されはじめているという。

 現在、同サービスを活用する顧客の割合は50%を超えた。ロッテ百貨店は、2017年4月に江南店でも同サービスを導入しているが、全国的な拡大を視野に入れている。

 一方、米国ではアマゾンがシアトルの店舗で「レジなしショップ」である「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」をテスト運営中だ。こちらは先述したスマート・ショッパーとは異なり、顧客がスマホ専用のアプリを用いて入店する。

 購入する商品をカメラやセンサー、人工知能(AI)で読み取り、自動決済する仕組みだ。店頭の入口には改札口のようなスキャナーが設置されているが、利用者はそこでアプリをかざす。その後、いつものように欲しい商品を手に取っていくと、店舗を出る際に自動的に計算された領収書を受け取ることができる。

 もちろん一度手にした商品を棚に戻すと、会計には反映されない。ショッピングの方法はそれまでの方法となんら変わりがなく、レジ決済がないだけだ。アマゾンは2020年までに同様のスーパーを2000箇所まで増やすとしている。

 アマゾン・ ゴーやロッテ百貨店のスマート・ショッパーには、次世代型ショッピングモデルを提案し、消費者の利便性を向上させる狙いがある。企業側にもメリットが多いのは、先に触れた通りだ。同じような仕組みは今後、スーパーや小売店にとどまらず、宅配サービスをはじめ、さまざまな産業で活用されていくと期待されている。

 一方で、人間の雇用が減少する危険を指摘する声も高まりつつある。米労働統計局によると、現在、米国内でレジ係として雇用されているスタッフは約340万人。レジなし店舗が普及すれば、そのうち約75%の人々が職を失うと見込まれている。

 レジなし店舗の普及は、世界、そして日本でどのように進んでいくのだろうか。続報に注目したい。

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