韓国ヒュンダイ自動車がウェアラブル・ロボットを開発中

ロボティア編集部2015年9月19日(土曜日)

自動車最大手・トヨタが無人走行への意欲を発表したが、韓国では業界最大手のヒュンダイ自動車がロボット産業進出へ意欲を見せている。

去る2015年5月8日、韓国・ヒュンダイ自動車の研究所で「最高経営責任者(CEO)新技術発表会」が開かれた。イベントが始まると、人間の背骨と足股関節をかたどった「ウェアラブル・ロボット」を着用した研究者が登壇した。

ロボットは研究者が体の力を抜いても倒れないように支え、重い荷物を運ぶ際には力を与えこれをサポートした。発表会を見守っていたヒュンダイ自動車の社長団は感激。発表会直後、ヒュンダイ自動車の経営陣は「高齢者の歩行や患者のリハビリ治療に有効だ」とし、ウェアラブル・ロボット事業への投資を決定。デザインチームとの協業を指示した。

研究チームが開発したロボットの名前は「H-LEX(Hyundai Lifecaring Exo Skeleton)」。歩行が困難な高齢者、姿勢矯正やリハビリが必要な患者の歩行を支援するロボットだ。
なぜ、自動車メーカーであるヒュンダイは歩行支援ロボットに興味を抱いたのだろうか。というのも、H-LEXは狭い路地や山など自動車が通らないところで、人間の移動を助けるという趣旨で開発された。自動車から降りた後も、最終目的地まで簡単に移動できるように補助する装置である。ある意味、自動車が達成できないタスクを、歩行ロボットにより補完しようという考えから投資に乗り出したと推測される。

ヒュンダイ自動車は、自動車の品質レベルを向上させているものの、ロボット技術分野では、ホンダなど日本の自動車企業に比べ特別な成果を出すことができずにいた。それでも、ロボット分野は今後欠かすことができない市場となるのは明白。2年前からは、グループ全体で注力し、未来成長産業として育成することを決定した。このような戦略を実行するためにスカウトされたのが、H-LEXを開発しているヒョン・ドンジン博士だった。韓国メディア朝鮮BIZは、ヒュンダイ自動車とヒョン博士の関係について詳細に報じている。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の「チーター」

ヒュンダイ自動車がヒョン博士の獲得に力を入れたのは、彼の経験と知識のためだった。ヒョン博士は「ウェアラブル・ロボットの父」と呼ばれる米カリフォルニア大学バークレー校ホマユン・カゼルーニー(Homayoon Kazerooni)教授の弟子だ。世界で最も“速い” ヒョン博士はロボットとして知られる米マサチューセッツ工科大学(MIT)の「チーター」の制御技術開発にも参加した。チーターの動画は、日本でも多くのメディアによって取り上げられた。時速100kmで走り、障害物を自在に飛び越える姿は、本物のチーターさながらである。

ヒョン博士の合流により、研究チームは会社の経営陣オーダーした予定より2年早く、ロボットを開発してみせた。ヒョン博士は、過去に医学部で勉強した経験も持つ。蓄積された人間の知識がロボット技術に融合され、開発期間が繰り上がったのだそうだ。ヒョン博士は「ロボットの自然な動きを実現するためには、センサーから収集した膨大なデータを高速処理することが重要だった」とし「この問題は、米ナショナルインスツルメンツ(NI)の設計ツールとモジュールで解決した」と話している。

ちなみにNIは、アメリカ合衆国オースティンに本社を置く計測器・制御のメーカーである。同社HPによれば「自律走行車両の設計からロボット設計理論の教育にいたるまで様々な分野に対応する直観的で生産性の高い設計ツールを提供」しているそうで、「NI LabVIEWグラフィカルプログラミング言語を使用すると、センサー通信や障害物回避、経路計画、運動学、操縦などを高度に抽象化することで、複雑なロボットアプリケーションでも簡単にプログラミングすることができる」という。

 H-LEXは、足に力を供給する“増幅モード”、転倒を防止する“負傷防止モード”、自ら歩くことが難しい人サポートする“歩行モード”など、さまざまな機能を設定することができる。スマートフォンやタブレットPCなどモバイル機器とも連動し、着用者がモードを変更したり速度を調整することが可能で、歩く姿勢や負担が加わる部位など個人健康情報も確認することもできる。

ヒュンダイ自動車は、開発したウェアラブル・ロボットを商品化する計画である。ヒョン博士は「2020年頃に量産する計画がある。日本のトヨタも2020年ごろからロボット市場が大きくなると予想している」と指摘した。また、「ロボット普及時代に備えるため、製品を軽量化、小型化しなければならない」とし、「特に利用者の動きを最も敏感に察知する脚足部のセンシング技術を、精緻化しなければならない」と補足した。

研究チームは、ロボット事業と自動車事業が相乗効果を生むと予想している。ヒョン博士は「ロボットは基本的に、モータベースのシステムで、様々なセンサー情報をもとに動きを実装する」とし「これは現在の自動車技術と大きく変わらない」と話す。自律走行車もロボット技術から出てきたもので、自律走行に必要な車線逸脱警報技術や側後方警告システム技術もロボット技術と関連があるのだそうだ。

研究チームは、ウェアラブル・ロボット意外にもプロジェクトを進めている。ヒョン博士は、「1人乗り、2人乗り中心の、個人移動手段の研究を開始した」とし「既存の車とは全く異なる開発方式から接近しようと試みている」と話している。現在、ヒュンダイ自動車は韓国IT業界1位、また検索部門1位のNAVER(LINEの親会社)とも提携しており、車両用地図や付加サービス開発に力を注いでいる。