(写真来源:瀋陽新松オフィシャルホームページ)
中国勢がリードするサービスロボット業界とは違い、産業用ロボット業界においては中国メーカーはまだまだグローバルなリーディングカンパニーの後塵を拝している。「黄色い巨人」ファナックの産業用ロボットの売上は2000億円を優に超している。濃いブルーの「MOTOMAN」安川電機の売上は1500億円以上、オレンジ軍団KUKAの売上はおよそ1500億円、そして白い躯体に赤いロゴが印象的なスイスABBの売上は実に4000億円に達している。
中国最大手の産業用ロボットメーカー「瀋陽新松自動化」(SiasunRobot&Automation)は2000年設立、2009年に株式を公開、習近平政権が2015年から国策として掲げる「中国製造2025」の流れにのり、大きく成長して来た。2022年4月決算で発表した売上は32億9819万1289元。円安の今、1元を20円と計算しても660億円程度であり、産業用ロボットの売上はその4割弱のおよそ250億円に留まる。上述の黄色・青・オレンジ・白の巨人たちと比べてまだ桁一つ足りていない状況だ。
サービスロボットでは新興ベンチャーが快進撃を続けられるのに、産業用ロボットではどうしてこのような状況が起こるのだろうか。理由は単一ではないが、やはり業界特性が大きく関係していると思われる。同じ「ロボット」でも、この2つの市場で求められるものは全く違っており、業界の成り立ちも違っている。非常に乱暴な言い方となるが、サービスロボットは市販のライダー、センサー、モーターなどの部品を組み合わせてハードウェアを設計し、そこに優秀なプログラマーが制御システムをかけば、最低限の商品化が可能となる世界である。
これに対して、産業用ロボットは、ロボットコントローラ、サーボモータ、減速機などの中核部品がすでにブラックボックスであり、新興メーカーが容易にキャッチアップ出来る類の技術ではない。また四軸、六軸の制御技術も長年の業界経験の蓄積が必要で後発企業が研究したところで、なかなか安定した制御は難しいだろう。さらには産業用ロボットのアプリケーション開発にはユーザー企業のものづくりについての深い理解と洞察が求められる。産業用ロボットは自動車、航空、精密機器、3C、食品など、業界ごと、企業ごとに違ったアプリケーションを求められる。さらには溶接、搬送、組立、検査など用途ごとにも、実に細やかなノウハウが必要となる。もともと製造業が盛んとは言えない遼寧省瀋陽市で設立された瀋陽新松ロボットにとって、産業用ロボット業界で世界の競合と渡り合うハードルは極めて高いといえる。
しかし瀋陽新松ロボットも決して手をこまねいて見ているだけではない。次章以降では官民一体で進められる中国のロボット産業育成の現状と、瀋陽新松ロボットがグローバルな巨人たちにキャッチアップする為にすすめている様々な企業努力を紹介する。