世界に先駆けて医療用搬送ロボットを開発したパナソニックの北野幸彦チーム。この連載ではその輝かしい業績と、それに比べての世界市場における日本のモビリティロボットのあまりにも低いプレゼンスについて考察します。
本記事は「シェア0.01%の謎・医療搬送ロボットHOSPIの功罪⑤ HOSPI大躍進」の続きです。
こうして2015年、Hospiの生みの親である北野幸彦は30年以上勤務したパナソニックを離れ、神戸に本社をおくメディカロイドという会社に転職した。そこは川崎重工の産業用ロボットの技術を利用して、医療用手術ロボットを開発する会社で、北野に取ってはゼロからの挑戦となるが、そちらの話は本題と逸れるので本稿では言及しない。北野離脱後のHospiはパナソニックプロダクションエンジニアリング株式会社によって引き継がれた。今では全国に販売網、サービス網が網羅され、積載容量の増加や、自動充電機能の追加など様々な新機能が追加され、パナソニックの一つの事業として、大きな存在感を示している。
一方、この数年間でモビリティロボットを取り巻く世界の市場環境は激変した。ちょうど北野がパナソニックを退職した2015頃を境に、米国、中国を中心にサービスロボットベンチャーが雨後の筍のように創設され、IoT技術や自動運転技術を後押しする両国政府の国策の影響もあり、自律型走行ロボットの技術は目覚ましい発展を遂げる。2018年、2019年頃からはエレベータと連動するロボット、公道を走行する自動運転カーも部分的に実用化されるようになり、さらに2020年のコロナ感染症を契機として市場は爆発的に成長する事になる。
【独自調査】「最も影響力が大きい中国30大ロボット企業」発表
【米メディア】「最も影響力が大きい世界50大ロボット企業」発表
米中のベンチャーは競うように商品・サービスを開発し、ベンチャーキャピタルはこぞってこの分野に巨額の投資をした。深圳PUDUテクノロジー社が米国セコイアキャピタルの出資を、Keenonロボティクス社がソフトバンクグループから出資を受けた事は、日本国内でも大きく報じられた。これらの企業は潤沢な資金を背景に世界各国の市場に進出し、それぞれの国に現地法人を設立。配膳、掃除、広告、配送、警備などの分野で比較的短期間でシェアを拡大した。これらの企業の中には年間数千台、数万台のロボットを販売するメーカーも珍しくはなく、グローバル市場全体の市場規模は(統計機関によってばらつきはあるものの一般的に)今や200億ドルから300億ドルに達していると見られている。
ここからいよいよこのシリーズ「シェア0.01%の謎」の本題に入る。誰よりもはやく自律移動ロボットを社会実装することに成功したパナソニックの市場シェアは、どのくらいなのか。また日本製サービスロボットは、どのくらいのシェアを獲得できているのだろうか。