人工知能(AI)サービスに“個性”を与える「感性デザイン(emotional design)」の流れが、世界各地で生まれつつある。
対話型AIは、問い合わせへの対応、各種サービスの案内、商品推薦などを自動化してくれる。ただし、顧客が人間のスタッフと会話する場合には、それら業務処理の結果だけではなく、安心感や共感を同時に与えることができる。感性デザインとは、その“心の繋がり”をAIサービスにおいても再現しようという試みだ。
現在、各企業はAIに名前をつけたり、話すトーンや接客態度を細かく分けることで、感性デザインを差別化しようとしている。そこには、米アマゾンのAI「Alexa」や、アップルのAI「Siri」のように、AIサービス名から特定の企業、またはその逆を連想させ、企業のブランド価値やサービスの認知度を高めていこうという狙いがある。
今年初め、スターバックスは飲料注文専用AIサービス「バリスタ」をリリース。コーヒー専門店というスターバックスの企業アイデンティティをAIサービスにおいても強調した。バリスタは、「エスプレッソをダブルショット入れたカフェモカに、低脂肪クリームとシナモンパウダーを入れてくれ」という人間のスタッフにもやや厳しい注文でさえ、なんなく処理すると言われている。
一方、米バンク・オブ・アメリカ(BoA)のAIサービスは「エリカ(Erica)」と名付けられた。名前の由来は、アメリカ(America)の後半の文字だ。エリカのキャラクターは、注意深く優秀な会計士。タスクとしては主に、顧客の資産管理を担当する。例えば「残高はいくら?」と尋ねると、「現在の残高は521ドルで、今月はいつもより消費が1000ドルほど多いです。月末にマイナス残高になるかもしれません」と、グラフまで描きながら説明してくれる。なお、フェイスブックがリリースした天気予報AIサービス名は、英語で雨着を意味する「ポンチョ」。こちらのネーミングも、AIサービスに感性を付与する狙いがあるとみて間違いないだろう。
アジア地域においても、AIサービスの感性デザインはひとつの潮流となりつつある。韓国・ヒュンダイカードが8月に発売した対話型AIサービス「バディー(Buddy)」は、男女キャラクターが別々に設定されている。顧客がヒュンダイカードのアプリケーションでバディーを選ぶ際、女性カウンセラー「フィオナ」、もしくは男性カウンセラー「ヘンリー」のいずれかを選択できる。選んだ“バディー”とは、テキストチャットを行うことができる。
フィオナは、優しくフレンドリーな口調が特徴的。一方、ヘンリーは礼儀とマナーを重視する英国紳士のようなキャラクターだ。例えば、顧客が「クレジットカードを紛失してしまった」と打ち込むと、フィオナは、「あら大変ね。一旦落ち着いて、カスタマーサービスに連絡して」と“共感”を前面に押し出した反応を示す。一方、ヘンリーは「今すぐヒュンダイカードの顧客センターに申告してください」と、用件処理を中心に正確な対応をしてくれる。
フィオナとヘンリーは、「カードの特典」「カスタムカードの推薦」「金融サービス」「コンサート前売り情報」など200以上の項目、回答のべ4万パターンの案内に対応している。現地メディアの取材に答えたヒュンダイカード関係者は、「機械音の自動応答システム(ARS)に関心がなかったお客様にも、面白いという反応いただいている」と状況を説明する。
流通大手ロッテのオンラインショッピングモール「ロッテドットコム」も、今年8月からAIチャットサービス「サマンサ」を展開している。サマンサは、ショッピングに興味が強い20代後半〜30代前半の女性キャラクターとして設定されている。ビジュアルはピンクのおかっぱ頭。顧客の立場からすると、自分にふさわしい商品をてきぱきと紹介してくれる、事情通の友人のようにも見える。
サマンサは、顧客が「彼女の誕生日プレゼントを探している。何かないかな?」と質問すると、「香水や靴、口紅のようなものがいいと思いますが、秋だから○○のは口紅どうですか?」という風に、お勧めの商品を画像と一緒に紹介してくれる。ロッテドットコム関係者は、「サマンサは、顧客が入力したメッセージから性別や年齢、呼称、アイテム、ブランドなどを抽出。200万個の商品の中からふさわしいものを選ぶ(中略)今後、音声認識技術をベースにサービスを拡大していく予定」と話している。
なお韓国電力は韓国の公共機関としては初めて、AIサービスを開始。9月末から音声対話型AI「パワーボット」をリリースしている。パワーボットのキャラクターは、電力のことならなんでも知っている「ロボットの従業員」。タスクとしては、「電気料金照会」「名義変更」「引っ越し精算書」「請求書発行」などを迅速・正確に解決することに焦点が合わせられている。なお、パワーボットには英語・中国語・日本語など「外国語案内」や「手話機能」もある。
AIサービスの競争力のひとつに感性デザインがあるとするならば、日本企業が用いることができる施策は多い。というのも、ドラえもんや鉄腕アトム、初音ミクのように、すでに世界的に認知されている機械的なキャラクターが数多く存在するからだ。そのような有名キャラクターでなくとも、文化的要素を機械にとり取むこと、また新たなキャラクターを生むことは、日本社会や企業が得意とするところではないだろうか。本当に愛されるAIがどのようにデザインされていくのか。世界の動向に注目したい。
Photo by viemo