獣害に苦しむ自治体を救え! 伊那市「ドローン×鹿検知コンペ」密着取材

大会は二日間にわたって行われたが、初日目には各チームの紹介が行われた。いずれのチームも、日々、技術を切磋琢磨するドローン専門企業、団体、研究者たちだ。参加チームは、それぞれ可視光カメラ(一般的な画像を撮影するカメラ)やサーマルカメラ(熱検知カメラ)、レーザー測量機、独自開発したソフトウェアを駆使するなど、各々のソリューションでコンペにのぞむべく準備を進めていた。なかには、地上を走るロボットと連携させる戦略を練ったり、総額約6500万円の最新ドローン&機材をお披露目するチームもあった。話題のAI技術「ディープラーニング」を画像解析に導入するチームが目立ったことも、今回のコンペの特徴だった。

総額6500万円以上のドローン&関連機器

なおチームKELEK×Fは、リハーサル段階ではサーマルカメラの使用を想定していたが、本番環境に合わせて戦略を変更。最終的に2台のドローンと可視光カメラ、独自のソフトウェアを用意し大会に備えた。

「普段、測量や調査の現場で磨かれた技術や運用方法でコンペにのぞむことが、もっとも優れた結果に繋がると最終的に判断しました」(前出、十田氏)

■ドローンの天敵・天候不良が発生…参加チームの決断

そうして迎えた大会当日。参加チームの士気が徐々に高まるなか、思いがけないハプニングが会場を襲う。ドローンの大敵である「天候不良」だ。会場となった鹿嶺高原には、大会開始時間が過ぎても霧雨がぱらつき、あたりには濃い霧や雲が充満していた。時折、太陽の光が差し込み、関係者や参加チームの面々からは歓喜の声が挙がったが、それも束の間。霧雨と濃霧が会場を再び包むという天候の変化が、数時間の間に立て続けに起こった。

やがて正午を迎える頃には、大会主催者側から大会中止のアナウンスが報じられた。すべてのチームに公平な条件下で、コンペを続行できないと判断したためだ。当然、コンペに向けて準備を進めてきた参加チームからは悔しさが滲む。その気持ちを汲んだ主催者側からは、再度ルールの変更を知らせるアナウンスが。最終的に「優勝チームは決めないものの、希望するチームに限ってフライトを行う」とされた。

ルールが再変更された後も、天候は数分おきに変化を続けた。各チームが判断を迫られるなか、KELEK×Fのメンバーもギリギリまで天候を見極めようと周囲の状況を注視した。そして、フライトを判断すべき時間まで10分をきったタイミングだったろうか。チームキャプテン・十田氏がメンバーを呼び集める。そして、短くこう伝えた。

「…棄権しましょう」

KELEK×Fのメンバーが、棄権という苦渋の決断を下したのにはいくか理由がある。なかでも最大の理由は「安全性を担保できないオペレーティングは決して行わない」という信念からだった。

現場で墜落事故が起きれば、人々の身に危険が及び、期待はたちまち失望に変わってしまうかもしれない。数多くの現場で活動してきたKELEK×Fのメンバーは、そのような事態を実際に何度も見聞きしてきた。仮に今回のコンペで事故が起きれば、テクノロジー導入に積極的な伊那市でさえ、ドローンを敬遠する雰囲気が生まだろう。そんな最悪のストーリーが、十田氏の頭の中をよぎった。後日、十田氏は当時の考えを振り返る。

「ちょうど2年前くらいの出来事ですが、群馬県前橋市の自転車レース大会で、ドローン絡みの事件がありました。ある人々が、雨が降り出した時にDJI S900を飛ばして、墜落・炎上させてしまった事件です。けが人はいなかったそうですが、その後、前橋市ではドローンの飛行規制が厳しくなるという事態に見舞われています。現場では何よりもまず安全であることが第一条件。コンペでは、フライトしたチームの機体が予想以上に濡れていた。そのため、棄権=フライト中止という判断をくだしました」

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。