ロボットベンチャー・SEQSENSEに聞く「日本の警備用ロボット」の未来

河鐘基2018年2月15日(木曜日)

ホテルや飲食店、また倉庫や小売店舗など、さまざまな産業にサービスロボットの進出が始まっているが、なかでも一際動向に注目が集まる領域がある。警備分野だ。一昨年頃から、海外では警備用ロボットが実用化され始めたとの報道が聞こえてくるが、日本の現状はどうだろうか。日本を代表する警備用ロボットベンチャー・SEQSENSEの代表を務める中村壮一郎氏、同社プロダクトマネージャーの佐伯純氏に話を聞いた。

※以下インタビュー、太線は取材者
※敬称略

-世界的に警備用ロボットの実用化が進もうとしています。現在、日本の市場規模や需要をどの程度だと見込まれていますか。

中村:まず国内では多くの産業において労働人口が減少を見せておりますが、警備・保安分野のそれは特に顕著です。有効求人倍率は全産業中トップクラスで8倍を超えている。完全に人手が足りていない状況です。加えて今後、高齢化がさらに進むのは確実。警備会社の方々、ビルのオーナーの皆様も危機感を抱えていらっしゃいます。そういう意味では、警備用ロボットの潜在的な市場規模、および需要はとても大きいでしょう。

我々はさまざまな領域で使える自律移動型ロボットを開発してきましたが、そのようなマクロな要因を鑑みつつ、東京五輪なども見据え、警備という分野に特化して会社を立ち上げた経緯があります。仮説がかなり合っていた部分もあり、現在、多くの問い合わせをいただいている状況です。

-問い合わせは、どのような方々からいただくことが多いのでしょうか。やはり警備会社ですか?

中村:警備会社の方々もそうですが、警備を実際に委託されている施設のオーナーの皆様から問い合わせをいただくことが増えていますね。

-SEQSENSEという企業、また御社における警備用ロボットの開発状況などについて教えてください。

中村:SEQSENSEは、2016年10月に設立された大学発のスタートアップです。警備用ロボットに関するプロジェクト自体は3年ほど継続してきた状況で、研究自体はさらに長年にわたって続けてきました。エンジニアの平均年齢は30歳代前半で、とても若い会社です。現場で手を動かすスタッフの数は15名ほどとなっています。

2017年の12月からは実証試験を開始していますが、2018年はテストおよび開発を続けながら、本格的なビジネス化の用意を図っていきたいと考えています。今後、大規模な公共施設や、大手オフィスビル内での実証実験も予定しています。

なお弊社では警備・管理・監視をワンセットで考えながら開発を進めていますが、インフラ関係各所やデータセンターなどからのお問い合わせも増えています。想定以上のお声がけではあるのですが、次のステップとしてそのような新たな領域にも踏み込んでいきたい。ただ、まだ実用化を果たした訳ではないので、導入を考えていらっしゃる方々との対話を続けながら、今年1年かけて技術的側面をじっくりアップグレードしていく計画です。

-警備用ロボットを実用化していく場合、技術的側面でネックになりそうな部分は?

中村:基本的に、クライアントの皆様とコミュニケーションしながら開発を続けていけば、望まれている機能はほとんど開発していけると考えています。あえてネックになりそうな側面を挙げるとしたら、認識系でしょうか。画像認識の精度などがそれにあたります。例えば、空港で警備をしていたと仮定して、パスポートなど比較的小さなものが落ちていた際にしっかり認識できるかなどですね。現段階では、人間やペットなど動くものの認識は問題ありません。そのレベルであれば、大学の実験レベルですでに実装が済んでいます。

-海外ではすでに警備用ロボットがショッピングモールや駐車場などで実用化されていると聞きます。海外競合他社の製品と御社製品いついて、どのように比較・分析されていますか

佐伯:米国企業だとナイトスコープ(Knightscope)、コバルト(Cobalt)が有名ですが、彼らは想定される顧客や現場にターゲットを絞り、技術を調整していく動きを強化しているように見えます。おそらく、フェーズとしては我々と同じような状況ではないでしょうか。つまり、米国企業も製品レベルでものを作りましたというのが一昨年や昨年の状況で、現在は実際に警備に適用できるのか、もしくは自分たちが考えている技術がサービスとして使ってもらえるかなど、実際に稼働しながら並行して市場に出していこうというフェーズだと思います。

例えばナイトスコープは、昨年の売り出しの頃に、携帯している銃を発見する機能を追加するというような趣旨の告知をしていました。が、今はそのような話はおそらくホームページ上からも消していて、実際に使える機能や、現場に即して投入した機能をアピールしている印象です。当然、銃を発見できるに越したことはないのですが、クライアントの求める要求はそこじゃないというか。ナンバーを記録するとか、そういう細かいところが重要のような気がします。

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それでも、実際に顧客のニーズがどこにあるかは、警備用ロボットを現場に投入しないと分からないものです。ナイトスコープのロボットが誤って池に飛び込んだというニュースが話題になりましたが、あの事例のように現場によって技術的に調整しきれない場合、ロボットがミスを犯す場合もありえます。

一方で、あらゆるタスクをこなせる汎用的な機体をつくるのは効率的ではないですし、エンジニアサイドとしても許容できません。結論的に、警備用ロボットを開発する世界の企業は、導入する現場の大きさ、広さ、内容によって、ひとつひとつカスタマイズしているフェーズだと言えると思います。

-警備用ロボットと言えば、ロボコップみたいなスーパーロボットを想像してしまいますが、実際には現場ごとに細かい調整が必要なんですね。それでは、SEQSENSEでは今後、警備用ロボットにどのような機能を具体的に持たせていこうと考えていますか。

中村:現状でも、警備用ロボットが当然クリアしていてしかるべきだと考えられている自律移動に関しては、ほぼ問題ないレベルで機能しています。そこから先、プラスαで何が具体的にできるかというのが、クライアントの皆様のリアルな要望になってきています。

我々としてはまず、環境に合わせて巡回する機能の精度を段階的に上げていきたい。また、開発を考えている機能のひとつに「不審者検知」があります。これは、事前に登録したデータベースなどから顔認証を行うというレベルの機能はすでにあるのですが、我々としてはもう一歩進んで、「不審ではなかろうか」という対象やその動きを発見する予防機能を想定しています。「DEFENDER-X」(注1)のような機能ですね。ただし、どのレベルまでその機能を洗練させていくかについては、現場や需要に応じて絞り込みをかけている段階です。

また将来的には、物理的な危険物を処理したり、カラーボールを投げるというような機能もあり得るのではないかと考えています。

※注1:【DEFENDER-X】人の精神状態(感情)を自動的に解析し、犯罪の可能性がある人物を事前に検知するセキュリティシステム

-警備用ロボットを商用化していくにあたり、どのようなビジネスモデルを想定していらっしゃいますか。

中村:さすがに売り切りでおしまいということはありません。アマゾンで売られていたら困りますからね(笑)。基本的には、何かしらのバイバック契約を結び購入いただくか、もしくは3年スパンくらいのリース契約などを考えています。3年すれば新しい技術やタイプが出ていると思いますので。もちろん、メンテナンスまわりも充実させたい。それにクラウド接続もしていますので、ペッパーみたいに基本パック+ハイレベルな機能に関しては課金させていただくような形も考えています。例えば、顔認識ですとか現場に特化したレベルの高い機能については外部から取り入れて、ユーザーの皆様にはオプションとして別料金で購入いただくようなイメージです。

-警備用ロボット1台あたりの導入コストは、どのくらいを想定してらっしゃいますか。

中村:人間の警備員ひとりあたりのコストくらいを目指しています。どこまで何ができるかは別として、昼夜、充電している時以外は稼働し社会保険もいりませんと。事故を起こすことはほぼないですが、万が一、花瓶を押して倒してしまうというような軽微な事故があったときのことを考慮して、最終的に警備員の方をひとり雇うくらいのコスト、作業効率で整合性が取れるレベルまで寄せていきたいと考えています。

-ロボットから収集したデータを活用する案はありますか。

中村:収集したデータでロボットの機能の精度を上げるのはもちろんですが、商業施設などでも応用できると考えています。監視カメラなどと連動すれば人のリアルな流れが把握できますので、実用性はとても高いと思います。

-SEQSENSEの警備用ロボットの製品の特長や強みは?

佐伯:3次元空間認識がセンサーを使って実現できているという点と、それらデータをロボットが単に自律移動に使うというだけではなく、警備業のタスクをしっかり処理するために使えるという点が強みです。

大手メーカーが開発しているロボットは、古い技術を引っ張ってきているものがまだまだ多い。人間が指示・プログラミングした通りの経路を巡回しているに過ぎません。それだと、日々の変化の中で警備業務をこなしていくことが困難になります。例えば、ビルの一角に植木を置いたとしましょう。従来のロボットだと、それを回避する対象としてしか認識しません。ですが弊社のロボットは「置かれていなかったもの」という風にまず認識・処理する。つまり、環境の変化を日々、学習していくのです。

-SEQSENSEの警備用ロボットは、デザインも非常にユニークですね。あのような形になった理由は

佐伯:人のいる空間に入るので、邪魔にならない、違和感がないデザインを想定しました。あと警備員さんと同じ目線で日々の環境を見ていくとなると、ある程度の高さが必要になると判断し、身長は120㎝ほどに設定しました。

中村:実際、機体を小さくしようと考えれば、いくらでも小さくできます。ただ、人込みの中に入るという前提がある。カメラ的にも、120㎝くらいの高さが撮影しやすいんです。

佐伯:海外の場合は粗暴犯が多いので、威圧的な意味を込めて機体が大きいですね。ナイトスコープなどの製品も、もっと期待を小さくできると思いますよ。

中村:確かに。海外と日本では、警備の概念が少し異なる気がします。日本だと警備員が異常がないか現場を巡回するイメージ。いつもと変わりないことを確認するタスクが全作業の中で占める割合が大きい。海外ではより直接的に危険を取り締まったり、粗暴犯などを鎮圧するイメージがあります。各社会の状況や需要によって、警備用ロボットのデザインも変わってくるのかもしれません。

-実用化まで着々と進んでいるとの印象を受けたのですが、今後の目標をお聞かせください。

中村:東京五輪が開催される頃には、各施設で警備用ロボットが巡回していることに違和感がない世界をつくりたい。五輪はあくまでもひとつの通過点に過ぎません。ただ、日本の警備業が盛り上がったのは1964年の東京五輪の時期。1962年にセコムが創立され、五輪で警備業が大きく認知されました。あれから約半世紀が経ちますが、次回の東京五輪は警備業のターニングポイントになる可能性を秘めています。つまり、これまで人海戦術でやってきたスタイルが、かなり機械化・自動化されていく。ドローンの発展もしかり、カメラなども高性能になっていますし、ある意味、警備業が次のステージに生まれ変わるきっかけになると考えています。

佐伯:東京五輪の話がでたので、ひとつだけ補足させてください。エンジニアサイドからすると、東京五輪は、「五輪後」を見据えてロボットの機能をブラッシュアップするよい機会だと考えています。我々が開発しているような環境認識ロボットにとっては、よい経験になる可能性があります。ほんの一例では、「不審検知」のレベルを上げるためには、国やカルチャーごとのデータを詳細に集める必要がある。理由は、文化や国ごとに「普通の動き」と「怪しい動き」が異なるからです。五輪には世界各国からさまざまな文化的背景を持った人々が集まるので、我々が海外に行ってデータを集めてこなくともロボットに学習させることができます。五輪後の社会を守るために、どうAIを育てていくか。そこは、非常に重要なポイントですし、そのデータをしっかり取るという技術においては我々の警備用ロボットは強みを持っています。

中村:冒頭で、警備業では圧倒的に人手が不足しているとお伝えしましたが、巷で語られるようにロボットは簡単に人間を代替することはできません。ドアを開けて、階段を自由自在にのぼるようなロボットは、100年後に実現するかどうかも不透明です。我々が目指すのは、ロボットがロボットとして動き、人間を支援する役割を担うというものです。人間が同じところをぐるぐると巡回する作業は、ロボットの方がミスも少なく適しています。そうやってロボットが埋めた人間の労力を、他の高度な作業に振ってもらうというのが我々の狙い。“人間がやらなくてよい仕事を担うが、その精度が人間より高い”。そんな警備用ロボットを実用化していくのが、SEQSENSEの当面の目標です。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。