海外メディアでも散見される「中国企業の採用には『美人枠』がある」という記事。「#metoo」ムーブメントとは完全に逆行し、ハラスメントや差別につながるとして国際的な非難もあびている。しかしこの傾向は、急成長をとげているアリババやテンセントも例外ではない。きわめて合理的であることを好み、競争も熾烈な中国社会ではこれも優秀な人材確保の戦略のようだ。
日中間の人材紹介コンサルタントたちによれば「中国企業は、ビジュアル的に美しい女性を雇う努力を惜しまない」事例によく出あうという。
たとえば、元日本人キャビンアテンダントという条件で求人を出す中国の某大手メーカーがある。彼女たちの仕事は、欧米や日本、国内大手企業のVIP対応業務。対応する社員に同行するのが仕事で、営業や交渉などの業務は行わない。報酬は最大で月額80万円という高待遇になることもあるという。
その募集詳細には、容姿に対する細かい条件も加えられている。「日本的な行き届いた気配りや、感じの良い優しい笑顔を保てること」「元CAでない場合はモデル経験者、新幹線の客室乗務員」「身長162cm以上で、そばかすがなく肌が綺麗で細身体型、容姿端麗」「28歳以下」「英語の日常会話レベルができる」「履歴書用の写真は顔写真以外に全身写真が必須」とダイレクトそのものだ。
中国企業が美女を雇いたがるという趣旨のエピソードは他にもある。数年前、四川省成都市で「美女“人材”選抜大会」なるイベントが開催された。イベントの写真を見る限り、どこの国でも開催されている美人コンテストのようにも思えなくもない。だがそのイベントの趣旨は少々異なる。実は地元の経営者と美女人材をマッチングするための場だそうで、企業関係者が気に入ればその場で即契約となるそうだ。女性たちの方も条件の良い職場に就職しようと切磋琢磨。ダンスやスピーチで鎬を削り合う会場の姿がメディアによって報じられていた。
■欧米の人権団体から批判が集中
そんな中国の求人広告や過度に女性に容姿を求める傾向について、欧米の人権団体からは批判が噴出している。米非営利団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、2013年から今年まで、中国企業の求人広告3万6000件を分析。その結果、セクシーな女性の写真や刺激的なフレーズが過度に多く、性差別的であると批判した。
「中国では性差別的な求人広告がしつこく続いている。(アリババ、テンセント、バイドゥなどの)中国企業は世界的なレベルを備えたと主張しながらも、時代錯誤的な戦略に依存している」とHRWの中国担当者は強調する。
この批判に対し、アリババ側は性別に関係なく平等な雇用政策を実施していると反論。全体の従業員の47%が女性であり、管理職の3分1が女性だと説明したが、指摘された求人広告については厳密に見直したいとの立場を示した。バイドゥも、問題の求人広告は報道される前にすべて削除したとし、職場内の平等に対する同社企業の価値を反映したものではないと釈明している。
グローバルにビジネスを拡大しているのにもかかわらず、そして国際的な非難があることも認めつつ、なお求人広告や採用基準に対して「美人枠」を設け続けている理由はどこにあるのだろうか。
中国企業が「美人枠」採用を設けるのは、取引先に好印象を与えるためという名目もあり、来客があるときには白人のキャストを雇う企業もあるという。とはいえ各企業の求人広告の中身やメディアの解析記事を見ていると、その主な理由が「優秀な男性社員の確保」と「男性社員の生産性向上」のふたつを狙ったものだということも見てとれる。熾烈な競争の中で、優秀な男性エンジニアを採用するための戦略である。
アリババは2017年1月、Weiboの公式アカウントに広告を掲載。そこには、挑発的なポーズをとる美女の姿とともに「彼女たちはあなたの同僚になることを望んでいる。あなたもそれを望むか」というフレームが盛り込まれている。
テンセントも2016年に米国法人のSNSアカウントで、「私がテンセントに入ったのは本能的な衝動(中略)。面接官と人事課職員がとてもキレイだったから」という内容の求人広告を掲載したことがある。バイドゥも同年、「美しい女性と一緒に仕事できて毎日幸せ」とする男性社員の姿をSNSアカウントにアップしている。
ニューヨーク・タイムズは、コミュニケーションが苦手な男性エンジニアのための「美人マッサージ師」の存在をレポートし、米ネットメディアKOTAKUでは、エンジニアを鼓舞するための「美人チアリーダー」を雇うIT企業が現れたと報道している。
■優秀なエンジニアの採用と定着のための施策
中国国内での熾烈な競争を勝ち抜き、グローバルでも事業を拡大していくためには優秀な男性社員を数多く雇う必要があり、彼らを惹きつける最もシンプルな原動力は美しい女性であるという、中国企業視点での「合理性」が働いているのかもしれない。どこの企業でもやっている慣習として、それがエスカレートしていることは推測できる。
もっとも当の中国人女性たちは職場での差別に敏感で、「女性差別に関してはNOを突き付ける傾向にある」という分析もある。中国現地の事情に精通する大韓貿易投資振興公社は、「韓国女性社員と中国女性社員の特徴」という分析記事の中で次のように指摘している。
「会議や仕事では、(中国)女性職員の意見が強い場合もある。また韓国のように一番年下の女性職員がコーヒーを入れたり、カップを洗うというような話になると異議が提起される。彼女たちは、それらは雑務を担当する清掃スタッフの仕事であり、まかされた仕事がある女性職員の仕事だとは思っていない」
従業員のモチベーションを高めるのにもっともプリミティブな手法を上場企業であっても取り入れる。中国の事例をみていると、仮にだが優秀な女性エンジニアが増えてくれば採用に美男子枠が登場してもおかしくないだろう。欧米諸国やグローバルな価値観とは相容れないだろうが、リスクをおかしてでも競争に勝とうとする姿勢が根底にあるのかもしれない。
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