バイドゥがAI英中リアルタイム翻訳モデル「STACL」発表

大澤法子2018年11月27日(火曜日)

中国のバイドゥ(百度/Baidu)が英語から中国語へのリアルタイム翻訳を実現する機械翻訳モデル「STACL」を発表した。同業他社であるグーグルへの宣戦布告ともとれる事態だ。

オンラインでは数々の翻訳サービスが提供されている。これらの翻訳サービスを活用すれば、いとも簡単に必要な言語への翻訳を入手できるようになっているが、一方で翻訳結果が出るのが遅いという難点がある。こうした既存の翻訳サービスが抱える悩みに対し突破口を見出したのがバイドゥである。数年間にわたる研究開発の末生み出された「STACL」では、ほぼ即座に翻訳することが可能であるという。

特に中国語-英語間の翻訳となると、ときに語順が異なるため、フランス語とスペイン語間の翻訳に比べ、レイテンシ(反応時間)の問題が生じがちである。そして、それは高品質な翻訳を阻む要因のひとつとなっている。

中国語は一部で、日本語と同様に動詞が文末に配置されることもある。それに対し、英語は主語の後に動詞が続くことがほとんどだ。したがって、中国語から英語への通訳となると、中国語の文を最後まで聞き取らないと開始されない。「STACL」は中国語の接頭語およびそれに呼応する英語訳のペアを用いて学習済みであり、ターゲット言語である英語の予測と連動したシームレスな翻訳プロセスの実装がなされている。こうして、中国語の文末の単語まで待たなくても、英語の文に現れる単語を予測しながら翻訳を進めることができる。

2018年10月23日現在、翻訳可能言語は中国語から英語のパターンに限られる。将来的にはその他の言語ペアでの翻訳にも対応させる予定である。

「弊社ではAI技術が人間の翻訳者の負担軽減の一助になることに期待を寄せている。人間の翻訳者にとっての脅威的存在として位置付けてはいない。矛盾がなく、なおかつより高い正確性が求められる通訳シーンにおいて役立つツールとなることだろう」
(バイドゥ データサイエンティスト・Liang Huang氏)

バイドゥの機械翻訳研究プロジェクトが急加速で進行している。2017年9月には、名古屋市内にて開催された機械翻訳サミット「MT Summit XVI」で、ボタンを押しながら話しかけるだけで自動的に翻訳、23ヶ国の言語に対応したWifi翻訳機を披露。翌年11月1日、北京で開催された国際会議「Baidu World Conference」において、音声翻訳にWifi翻訳機が活用された。

一方、グーグルは2017年10月、翻訳機能付きイヤホン「Pixel Buds」をリリース。つい先日、単一Cloud TPU上であれば約30分で訓練可能な自然言語処理の新モデル「双方向性エンコーダ表示システム(Bidirectional Encoder Representation = BERT)」を公開したばかりだ。

検索エンジン大手のグーグルとバイドゥ。最終的に業界の王者となるのはどちらか…今後の動向から目が離せない。

Photo by Baidu Research HP

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大澤法子

記者:大澤法子


翻訳者・ライター。1983年、愛媛県生まれ。文学修士(言語学)。関心分野は認知言語学、言語処理。医療・介護分野におけるコミュニケーションに疑問を抱いており、ヘルスケアメディアを中心に活動中。人間同士のミスコミュニケーションに対するソリューションの担い手として、ロボット・VRなどがどのような役割を果たし得るかを中心に追及。

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