AI時代で少数言語が消滅!? 「言葉」を守るデジタル社会の在り方とは 

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特定の言語の消滅を避けることは、イノベーションにとっても重要なはずだ。現代社会は、社会環境、自然環境問わず急激な変化を遂げており、社会的課題も次々と噴出している。しかし、同じ考えや価値観、見識、知識しか持たない画一的な集団では、解決法を考え出す際に限界がある。すなわち、多様性をいかに生み出し担保するかがイノベーションのひとつのカギとなるが、中山氏の話を聞く限り、人間や知識の多様性さは言語の多様さに直結している。

デジタル空間において言語の多様性を守ろうという動きは、少しずつだが大手IT企業にも意識され始めている。例えば、米マイクロソフトの翻訳機能「Microsoft Translator」には、前述のメタネットが消滅する言語リストに挙げ、現時点で話者が40万人に満たないアイスランド語が新たに追加された。すでにWindows 10、Kindle Fire、Outlook、Microsoft Word、Bing、iOSなどで利用可能となっているという。その動きは単純な道徳的観点からではなく、多様性や知の保存を目標としていることは想像に難くない。

なお、「世界にある言語のほとんどは文字を持たない」と中山氏。音声認識・音声対話が可能なAIソフトウェアおよび各種プロダクトが、少数言語に対応していくのはとても有意義なことかもしれないと話す。実際、一部の文字を持たない少数言語話者の中では、チャットアプリのボイスレコーダー機能を多く活用する傾向も見られるという。彼らにとって、いちいちアルファベットに置き換えてチャットするのは面倒で非効率だ。韓国では、文字をタイプするのが苦手な高齢者にAIスピーカーが人気という話もあるが、どこか相通じる話ではないだろうか。ユーザーインタフェースの設計というテーマは、少数言語への対応という文脈でとても重要になりそうだ。

「個人的には、少数言語を維持・保存することはすなわち、各言語を使う人々および社会を維持・保存することだと考えています。少数言語を博物館の標本のように集めておくことが保存だと考えている人もいますが、言語は使われてこそ意味がある。デジタル技術やAI技術で少数言語をサポートするというのも解決策のひとつではありますが、そのほかにも、構成人数が少ない社会集団やコミュニティを守る手段としてデジタル技術を利活用していく道はたくさんあるのではないでしょうか」

少数民族の生活や営みを守ってこそ言語の多様性を守れる。また、そこにテクノロジーが寄与できることは多いのではないか――。中山氏の指摘は、デジタル時代における少数言語問題の本質を突いている。5Gなど通信環境が拡充されていけば、僻地にいる部族や民族の通信手段が確保される。また、ドローンを飛ばし物資調達など経済活動を円滑化する道も拓けるだろう。デジタル空間において“データ”として少数言語をサポートする以外にも、特定の社会集団の生活を守るためのテクノロジーの使い道は無限大だ。足りないのは、社会的なコンセンサスなのかもしれない。自然言語処理技術の発達が進むなか、“小さな言語”が生き続けることの意義を改めて社会全体で問うていく必要がある。

※本記事はファーウェイ・ジャパンのデジタルオウンドメディア「HUAWAVE」掲載の「デジタル&AI時代が加速させる少数言語の消滅 テクノロジーが今できること」を加筆・再編集したものです。

河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。