世界各国の研究機関やメディアが、「ロボットが人間の仕事を奪う時代は近い」と声を上げ始めて久しい。しかし、ひとりのロボット専門家がこれに疑問を提起している。
11月5日、「グローバル人材フォーラム2015」の舞台に登壇した米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)機械工学科のデニス・ホン教授は、「ロボットが人間の仕事を奪うという考えは、誇張されている。ロボット技術は、人間を幸せにするためのものであり、互いに共存することができる」と指摘した。
ホン教授は、2009年に「科学を揺るがす若い天才10人」に選ばれた人物である。この日は「ロボットは人間を代替することができるか」というテーマのセッションに発表者として登場した。
ホン教授はその席で、「ロボット技術が人間の仕事を奪うほどまでに発達するには、少なくとも数十年の歳月がかかるだろう」とした。彼はロボットの「脳」に該当する人工知能と、「体」に該当するロボット技術は別の要素だと説明した。
ロボットとはそもそも“総合技術”であると専門家たちは言う。その要素には、センサー、コンピューター、アクチュエーター、機構、モデリング、制御、アルゴリズム、ソフトウェア、インターフェイスなどが含まれる。もう少しわかりやすく区分するならば、上記のような「脳」に該当するソフトウェアと、「体」に該当するハードウェアを組み合わせたものということだ。ホン教授の指摘は、前者の発展スピードは早まっているものの、後者のそれはまだまだ人間を代替えするほどのレベルに達するのは難しいという指摘である。
彼はまた、ロボットが有効活用されるようになれば、新しい産業が生じるとも話した。これは、「むしろ雇用が増える」という指摘である。例えば、自動車がなかった時はガソリンスタンドやメカニック、整備士などの仕事も存在していなかった。現在、自動車と関連した職業が非常に豊富である。ただしホン教授は、ロボット時代における教育システムは、創造性と芸術性など、ロボットに代替不可能な特性を育てるものに変化しなければならないと話している。
ホン教授はまた、ロボット科学者としての倫理的な悩みを参加者たちに正直に打ち明けた。というのも、ホン教授は現在、米海軍の支援を受け、軍艦で火災が起きた時に投入される火災鎮圧用ロボットを開発しているのだそうだ。
「開発が完了してしまえば、ロボットが消火器の代わりに銃を手にしたとしても、私は、コントロールすることができない。技術は意図していない結果をもたらす場合もある。開発と同時に、技術をコントロールする方法を確立しなければならない」(ホン教授)
それでも、ホン教授はロボット技術の発展が人間社会に資するという信念を捨てていない。ホン教授は、世界初の視覚障害者のための無人自動車を開発し、昨年には災害救助ロボットを作るため、日本の福島原発の中に直接足を踏み入れている。
ホン教授は「無人自動車の走行に初めて成功した時、視覚障害者の幸せな表情を忘れることができない。人間に幸福を与えるロボットの開発に人生をかけると心に決めた」と自身の経験と気持ちを話した。