[写真:報道陣を前にステーキ配送実験の説明をする渡辺コンサルタント]
フードコートは1980年代の初頭に米国で誕生した。1980年代後半には、日本市場においても大手ショッピングモールを中心に積極的な導入が進められ、1990年代には広く社会に浸透した。複数のレストランのサービスを、リーズナブルに受けられるこの形態は、当時は画期的であった。顧客によるセルフサービスを前提とするオペレーションは早い段階で完成され、2000年代にはファミリー層、カップル、単身者などさまざまな層のユーザーにとって、なくてはならない存在となっていった。
また顧客が自ら配膳し、食後は下膳するいうようなシステムも、日本の消費者の嗜好にもあっていた為、現在のフードコートの動線設計は、そのようなオペレーションを前提に最適化された完成度の高いものとなっている。そして皮肉な事に、それが日本のフードコートのDXやロボティクス化を阻む要因となってしまうのである。
今回の実験を担当した株式会社エリアカザンNaaS事業部の渡辺豊コンサルタントによるとフードコートにおいてロボット配送を実現するハードルは相当高かったという。
「フードコートはそもそもロボットが注文後の料理をテーブルまで配膳する事を前提としていないですよね。配膳も下膳もお客様が自分で運ぶ事を前提に空間設計がされています。そこにロボットの走行ルートを設定しようとすると、さまざまな弊害がありました」と渡辺コンサルタントは語る。「しかもフードコートは普通のレストランのように固定の席番号がなく、お客様は注文してから自分が探す席を探すのが基本です。ロボットは料理を目的の席まで運んでくれるのですが、その目的地が事前にわからない。他にもさまざまな問題がありました。
しかも複数の店舗毎にメニュー、オペレーション、決済システムがそれぞれ違っています。ロボットを導入しようにもどの店舗のやり方にあわせるべきかから考えなければなりませんでした。最終的に『いきなり!ステーキ』様の協力で、ステーキ配送を行う事に的を絞って導入プロジェクトを進めましたが、今度はアツアツのステーキが冷めないうちに、他のお客様にぶつからないよう運ぶにはどうすればいいのか。出来たてのステーキからはねる油をどのように防ぐかなどの問題がありました。
人間であればこのような問題は起こりません。他の人間にぶつからないように、油が他の人に飛ばないように気をつけて配膳する事ができます。また熱いステーキが冷めないうちに急ぐべき、という判断をする事ができます。でもロボットはそこまで臨機応援に考える事は出来ません。どういうシチュエーションで、何を優先するべきなのかは、事前にアルゴリズムを設計し、プログラミングする必要があります。今回は準備期間も2ヶ月ほどしかなく、かなりハードな実験プロジェクトになりました。」(渡辺コンサルタント)
フードコートにおけるロボット配送は日本には前例がなく、実験プロジェクトチームは上記のような課題に一つ一つ取り組み、解決していくしかなかった。必要な機能を実装し、オペレーションを設計し、フードコート関係者、ショッピングモール関係者、ロボットメーカーと議論をかさね、ようやく実験開始の12月15日を迎える事になる。
「アリオ実験③ フードコートのSOS?」に続く