【じっけん農場レポート①】失われた生命力を求めて(完全無農薬・無肥料野菜は可能か?)

浅見学2022年9月30日(金曜日)

じっけん農場「あさみえん」

はじめまして。東京都で無肥料無農薬のじっけん農場「あさみえん」を経営している浅見学と申します。日常的に農業に関心が薄い皆様に、私がやろうとしている事を正確に説明するのは難しいのですが、あえて言語化すると「JAの農薬残留基準や、日本の農家の方々がこれまで築き上げて来た野菜栽培のセオリーに盲目的に従うのではなく、一つ一つの農法を批判的に検証しつつ、ゼロベースで様々な手法を試す事で、無肥料で無農薬な野菜を作るファーム」になります。

みなさんは「無肥料無農薬栽培」を聞いた事がありますか?これは文字通り、肥料・農薬を使用しない野菜作りで、先行事例が少なく、その結果否応無しにトライ&エラーを繰り返す必要があり、まさに「じっけん農場」スタイルの農法となります。本連載ではいろいろな分野における「じっけん秘密基地」から、そのチャレンジをレポートして行きたいというロボティア編集部の要請に答えて、「農」に関わる実験の悲喜こもごもを発信させて頂きます。

なぜ無農薬で無肥料なのか?

さて「無農薬栽培」についてはみなさんよくご存知だと思います。農薬取締法で農薬は「農作物を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみとその他の動物またはウイルスの駆除に用いられる殺菌剤、殺虫剤」と定義されていますが、無農薬栽培とは要するに除草剤や殺虫剤、殺菌剤などを使わないスタイルです。

一方で「無肥料栽培」、肥料を一切与えずに作物を育てるスタイルというのはあまり聞いたことがないのではないでしょうか。肥料には大きく無機質肥料と有機質肥料があります。「窒素」「リン」「カリウム」などを化学的に合成した無機質肥料と、油かす(油を搾った後の残りかす)や牛糞(牛のふん)などの有機物を含んだ有機質肥料。これら農薬や肥料を一切使用せずに作物を育てる事にチャレンジしています。

ここで必ず聞かれるのが「農薬は分かるけど、なんで肥料も使わないの?」という質問です。

植物本来のもつ生命力を信じているから

それは「植物は人為的に肥料や農薬を与えなくても、勝手に育つポテンシャルを持っているはず」という仮説を私が持っているからです。例えば、道端の草や森の木をイメージしてほしいのです。彼らは元気にたくましく育っていますが、人間に肥料を与えられているわけではありません。もっといえば、潅水も自然の雨のみであり、夏の暑く乾燥した時期に誰かが水やりをしてくれる、ということもありません。

一方で普段私たちが口にする野菜は、人為的に肥料や水を与えられています。でしたらその分、自然の草木よりも健康に育ちそうなものですが、病害虫対策を欠かすことができません。これって何かおかしくないでしょうか。
私の仮説はこうです。現在の農薬や肥料に依存した農法では、植物本来のもつ「生命力」が失われてしまっており、栄養的にも、味覚的にも貧弱な作物しか育たないのではないか。逆に植物たちが持っていたはずの「失われた生命力」を取り戻す事が出来れば、おどろくほど個性的で、おいしく、栄養価の高い野菜を育てる事ができるのではないか。そしてそれは、これまでとは全く違う形での、植物と人間の共生関係を模索する事になるのではないか。そう、無農薬で無肥料の農法にはけっこうビジョナリーな夢があるのです。

もちろんこの仮説を立証する為には、これから長い時間をかけて味覚、栄養、そして「植物の生命力」というものについて、厳密に用語を定義した上で、各方面から科学的な検証を進めていく必要があります。次回からはそうした検証のプロセスを、実践編として実例を交えながらレポートしていきます。どうぞお楽しみに。