【日本の入札を検証する】55億円と8年の月日がパー(東芝による特許庁システム開発プロジェクト狂想曲)③東芝の責任

花園 祐2023年12月19日(火曜日)

[写真]浜松町ビルディング 旧東芝本社(記事の内容とは直接の関係はありません。)

開発請負業者の責任

以上のように発注側、そしてその中間に立つコンサル側の責任が同プロジェクトではよく指摘されていますが、それらを踏まえても開発請負側である東芝ソリューションの責任も見逃せません。やはり私が一番問題視しているのは、前述の入札の経緯です。もしかしたら他の二社が受注していたとしても同プロジェクトは失敗していたかもしれませんが、その反面、成功していた可能性もあったわけです。

特に東芝ソリューションは前述の通り、入札予定額を大きく下回る、赤字覚悟のバーゲンプライスで受注に成功しています。その入札経緯を見ていると、何が何でも案件を受注しようとして、自らのプロジェクト達成能力は度外視していたようにも見えます。実際に周囲の予想通りだったというかプロジェクトは実際達成されませんでしたが、東芝ソリューションにとってはバーゲンプライスな入札額のおかげで、補償費用は安く済んだという副次的な結果を生んでいますが。

根本的な問題は見積りプロセスでは?

以上を踏まえて同プロジェクトの最大の失敗要因を語るとしたら、私は東芝ソリューションの見積りプロセスにこそ一番問題があったように思えます。本来であればプロジェクトに必要な工数、技術などを勘案して費用を積み敢えていくのが見積りプロセスですが、同プロジェクトの入札で東芝ソリューションは実績作りのためか、明らかに赤字覚悟で入札価格を作っていたように見えます。

このためか、実際にプロジェクトを受注してしまえばどうにかなるとばかりに自らプロジェクト遂行能力を度外視し、結果的に自分の手に負えないプロジェクトを抱えることとなり、誰にとっても望ましくない結果を招くに至っています。

仮に実際のプロジェクト規模をしっかり見定め、必要な工数や技術を勘案し、自らの利益を鑑みた費用計算がしっかりなされた見積もりを作っていれば、東芝ソリューションはこのプロジェクトを受注せずに済み、特許庁はきちんとシステムを開発でき、東芝ソリューションも費用を弁済せずに済んだかもしれません。またプロジェクト受注後に仕様や要件が変動した際にも、きちんと見積りを作り直して場合によっては即撤退の判断を行えていれば、東芝ソリューションの損害はより小さくできたでしょう。

こうした考えから、発注側に振り回されたという点を考慮しても、東芝ソリューションにはやってくる不幸を回避するチャンスは確かにあったと私は思います。同時に、やはり赤字覚悟のいい加減な見積りというのはこの特許庁システムプロジェクトのように、誰にとっても不幸となる結果を生みかねません。たとえどんな状況だろうとも、経済原理に則ったしっかりと採算の取れる見積もりを作るということが、このプロジェクトにおける最大の教訓になるのではとも思います。

その後も続く官公庁のシステム開発の混乱

この特許庁システム開発の失敗経緯は、プロジェクト中止から何年も経過しながらも、いまだに当時の失敗を省みる検証記事が数多く作られています。それだけ業界にとってもショッキングな出来事だったようで、今後のシステム開発に向けた教訓となる方針なども立てられています。

ただ、それら反省を経ながらも、いまだに官公庁のシステム開発では混乱や失敗が多いように見えます。近年でも新型コロナウイルス接触確認アプリの「COCOA」で、多大な税金が開発や運営に投入されながらも、感染拡大抑止でさしたる効果が見られなかったどころか、保守業務がきちんとなされず何ヶ月にもわたり実質的に機能しない期間が出るなど、カスみたいなプロジェクトが散見されます。

システム開発プロジェクトが失敗に終わるたびに官公庁はあれこれ言い訳をつけては教訓を発表しますが、あくまで部外者目線で述べると、何かと話題な人事でおなじみのデジタル庁をはじめ、官公庁内においてシステムに明るい人材が不足しすぎている以外に理由があるのかと内心思います。あれこれ言い訳を考えている暇があれば優秀な人材を誘致する方向に何故努力できないのか、いつも見ていて思います。

<参照サイト>
特許庁の基幹システムはなぜ失敗したのか。元内閣官房GPMO補佐官、萩本順三氏の述懐(Publickey)

花園 祐

記者:花園 祐


花園裕(はなぞの・ゆう)中国・上海在住のブロガー。得意分野は国際関係、政治経済、テクノロジー、社会現象、サブカルチャーなど。かつては通信社の記者。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。