(写真:COCOA導入を推奨する地方行政のホームページより)
新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」の登場
2020年初頭の新型コロナウイルス感染症の流行は、文字通り世界を一変させるほどの多大な影響を各地にもたらしました。最初の感染拡大国であり、私の生活拠点である中国も例外ではなく、感染拡大抑止を理由に移動や行動で様々な制限がつけられました。
この間、中国でほぼ強制的に感染者監視アプリのインストールが義務付けられ、同アプリによって感染の可能性がないことを証明できなければ、公共交通機関も使用できないほどでした。ただその通知機能の迅速さは確かに目を見張るものがあり、同じマンション内で感染者が出た場合は即通知が来て、対象者には自宅内隔離が指示されるとともに、近くの衛生機関への連絡も直ちに行われていました。
こうした感染拡大防止用アプリは、中国に限らず韓国や台湾などでも開発、運用され、感染拡大抑止に大いに力を発揮したと当時喧伝されました。こうした周辺国の声を受けてか、日本政府も同種のアプリの開発を決定し、その後リリースされたのが新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」でした。
リリース当初よりトラブル続出
こうして2020年6月、国民からの高い注目とともにリリースされたCOCOAは、中国と違ってインストールすることに強制性がなかったにもかかわらず、一時はサーバーがダウンするほどダウンロード者が殺到しました。最終的なダウンロード件数は4千万件にも達し、他の人気商用アプリと比べても顕著なダウンロード実績を残すに至っています。
しかし、感染拡大抑止を期待されたCOCOAでしたが、リリース当初よりトラブルが頻発しました。バグによってアプリがきちんと動かなかったり、通知が多発するなどといった問題が当初発生しましたが、そのたびにアップデートも繰り返されてはいました。
しかもリリース開始から3か月後の2020年9月に配信されたバージョン1.1.4に至っては、ユーザーが感染報告を行っても接触者に通知がいかないという、根幹的機能が全く機能しないという重大バグを抱えていました。これほど大きなバグならすぐにも検知できそうなものですが保守運用を委託されていた業者は、本当に仕事していたのか怪しいものですが、この問題に全く気付かず実に4ヶ月にもわたり放置しました。
この間、ソフトウェア開発プラットフォームGitHubや、感染したにもかかわらず家族らに通知が行かないことに気が付いたユーザーから、バグが存在しうるという指摘が出ていました。にもかかわらず、COCOAを主管していた厚生労働省やその委託先企業はこれら指摘を気づかなかったのか無視し、ほぼ無価値となったアプリを配信し続けました。
再委託率が9割超にも
このように感染抑止効果よりもトラブルばかり悪い意味での話題が豊富だったCOCOAでしたが、2022年11月に政府のコロナ規制緩和を受け、2023年3月にその機能を停止しました。この間までの開発、運営費は約12.7億円とされ、トラブルが相次いだからその費用対効果に関して、メディアはもとより国民の間でも疑問視される声が出されました。
特に、総費用のうち約4億円を占めた開発費に関しては、発注の丸投げぶりがとかく疑問視されました。政府はパーソルプロセス&テクノロジーに4億円でCOCOAの開発を発注したところ、パーソルプロセス&テクノロジーはこのうち約2200万円を自らの取り分として留保し、それを差し引いた残りの金額で別の3社に開発を再委託しました。その再委託先もさらに再々委託を行っていたとされ、随意契約であったこともあり、実際に開発を請け負う業者の選定に問題はなかったのかと議論を巻き起こすこととなります。
またパーソルプロセス&テクノロジーの再委託金額に関しては、政府発注で原則的に禁じられている再委託比率5割という水準を大きく上回っています。この点について政府は後の総括報告書などで「緊急事態だったため仕方がなかった」と弁明し、その後の検証作業に関しては放棄しています。
結果的に、前述の通り根幹機能の停止という重大バグが4ヶ月にわたり放置されるなど、すべての業者とは言わないまでも、複数回のアウトソーシングを受けた業者がきちんとその職務を果たしたかといえば疑問です。またその業務執行に対するモニタリングも疎かだったと言わざるを得ず、こうした野放しはまさにこの丸投げといっていいような発注形態に起因するものだったのではないかとして、私個人はこのCOCOAの総括において発注段階こそ最も検証すべき点だったと思います。