【失敗のからくり②】ユニクロだけじゃない?ドコモも手を出して失敗した有機野菜事業

花園 祐2024年3月22日(金曜日)

前回記事では2002~2004年にかけて展開されたものの、赤字撤退を余儀なくされたユニクロことファーストリテイリング社が行っていた、有機野菜事業の失敗例を取り上げました。

この有機野菜事業ですが、実は大企業、それも農業とは縁もゆかりもない文字通りに「畑違い」な企業が参入していることの多い業界だったりします。でもって、そのほとんどが大した実績を挙げられず、悉く無残な撤退に追いやられているのまで同じです。
そこで今回は、ユニクロと同様に有機野菜に手を出しては見たものの、物の見事に失敗して見せたNTTドコモ社の例を紹介します。

事業多角化に向けM&Aを推進

みんなお馴染み通信大手のNTTドコモ社ですが、現在において彼らが有機野菜事業に手を出して失敗したという黒歴史を覚えている人は、いまやあまり多くないでしょう。

NTTドコモ社は2012年、有機野菜や無添加食品の宅配事業を行っていた「らでぃっしゅぼーや」を買収します。その目的は言うまでもなく有機野菜事業への参入ですが、NTTドコモ社は当時、有機野菜事業以外でも異業種企業へのM&Aによる、事業の多角化を積極的に行っていました。
一例を挙げると「ビリーズブートキャンプ」というエクササイズDVDのヒットで名を成した通販会社のオークローンマーケティング社も、NTTドコモ社は2009年に買収して傘下に収めています。

NTTドコモ社が当時事業の多角化を進めていた背景としては、ガラケーからスマートフォンへとガジェットが移っていく中、同社の主力コンテンツであったiモードの収入が先細っていたほか、通信料金単価も下がって減収減益を記録しており、通信事業以外の新たな収益源を探していたためと指摘されています。

ただ買収後、NTTドコモグループで主な収益源となった企業はあまり聞かれません。失敗することとなった有機野菜事業を含め、同社の当時における積極的なM&A戦略に対する評価は決して高くありません。

高く買って安く売る羽目となった結末

こうして有機野菜事業に手を出したNTTドコモ社でしたが、買収した後もらでぃっしゅぼーやの売上は伸びることはなく、翌2013年には早くも巨額の赤字を計上することとなります。その後も業績は一向に改善することなく、2018年には同じく有機野菜事業を手掛けるオイシックス社(現オイシックス・ラ・大地社)へらでぃっしゅぼーや事業を売却することとなりました。この間、わずか5年の早業でした。
なおNTTドコモ社のらでぃっしゅぼーやに対する買収額は約69億円に対し、オイシックス社への売却額は約10億円で、その差額は59億円にも上ります。「高く買って、安く売る」とはまさに、こういうことを言うのでしょう。無論、オイシックス社にとっては文字通り、「おいしい」取引となったことでしょうが。

ユニクロ以上に目立つその内容の悪さ

以上がNTTドコモ社の有機野菜事業失敗の経緯ですが、ユニクロの失敗例よりもその内容の悪さが目立ちます。こう思う理由としては、ユニクロの場合は自ら事業を立ち上げており、仕入先から販売先まで一から構築していました。結果的には失敗に終わったものの、非常に困難な課題へ果敢に挑んでいたに加え、担当責任者であった柚木治氏はこの失敗をばねに後年、GUブランドを大成功へと導いています。

一方、NTTドコモ社のケースは前述の通り、元々有機野菜事業を営んでいたらでぃっしゅぼーやの買収を通して有機野菜事業に参入しています。既存の仕入先や販売先を持っているという恵まれたスタート状態であったかかわらず、事業を黒字化することができず、前述の通り買収時より安い価格で事業売却へ追い込まれています。この間に巨額の赤字まで出しており、この結果は買収前の判断ミス、または買収後の経営能力のなさのどちらかに起因すると言わざるを得ません。

またユニクロの柚木氏のように、担当責任者がその後失敗を取り返すような活躍を見せたという話も聞きません。まぁこれは柚木氏をその後も再び起用した、ユニクロというか社長の柳井正氏の目が特別であったとみるべきでしょうが。

なぜいきなり買収したのか?

それ以上にNTTドコモ社のケースで気になるのは、なぜ業務提携からではなく、いきなり買収から始めたのかという判断です。有機野菜事業への参入を発表した当時、NTTドコモの担当者が業界ニュースサイトのBUSINESS NETOWROKのインタビューに答えています。そのインタビュー記事によると同担当者は、野菜商品をドコモショップでも販売するほか、配送員や生産者にタブレットを持たせることで、顧客により質のいい提案や、整備された生産・採算性管理を提供し、事業の質を高めていくという方針を明かしています。

要するに、NTTドコモが持つモバイル通信技術によって、有機野菜事業をより効率化できると言いたかったのだと思います。しかしタブレット持たせただけで何か変わるのかと言ったら、正直私には疑問です。

またその他の語られている内容を見ても、どれも具体性を欠いているように見えます。実際に買収後、NTTドコモ社の有機野菜事業へのてこ入れはかなり限定的であったと言われており、その後の顛末も見る限り、買収前に明確な方針や価値ある業務提携方法などをあまり考えていなかったのではないかと思えます。言い換えると買収することありきで、事業の収益改善、成長などは二の次だったのではないかとみられます。

であるとしたら私にとって疑問なのは、なぜ一部出資などの業務提携から始めなかったのかということです。明確な勝算がなかったのであれば、試験的に有機野菜事業を営む企業と業務提携し、その提携効果を見極めてから買収する方が理に適うように見えます。それをせずにいきなり買収したというのは拙速もいいところであり、前述の通り買収ありきで物事を進めていた節があるように見えます。

冒頭にも書いた通り、NTTドコモ社は当時、事業多角化を進めるため異業種企業のM&Aを積極的に進めていました。しかし自社の事業との関連性が薄く、提携効果の弱い企業を買収してはこの有機野菜事業のようによく失敗しており、多角化路線に対する当時の経営者の判断、質には疑問しか浮かびません。
まぁ失敗を気にせずM&Aを仕掛けられるくらいキャッシュフローが余裕なんだということでしょうが。

なぜ大企業は有機野菜に手を出すのか

以上の通り、ユニクロもNTTドコモ社も有機野菜に手を出したものの、結果的には無残な撤退という同じ末路を辿っています。ただ失敗したのは何も彼らだけでなく、有機野菜を含む農業事業では過去にこのほかにも異業種から大企業の参入が数多くあったものの、その大半は失敗に終わっています。

ここで疑問となるのは、なぜ失敗例が多いのにみんな有機野菜などに手を出す企業が相次ぐのか、でもってなぜみんな失敗してしまうのかという点です。そこで次回は、これらの疑問について私見を述べて参ります。

花園 祐

記者:花園 祐


花園裕(はなぞの・ゆう)中国・上海在住のブロガー。得意分野は国際関係、政治経済、テクノロジー、社会現象、サブカルチャーなど。かつては通信社の記者。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。