[写真]特許庁(千代田区霞が関)
計り知れない損失
プロジェクト中止後、開発を請け負った東芝ソリューション、そして開発サポートを請け負ったアクセンチュアへ支払われた費用は計約55億円でした。開発に係った両社は責任を感じてか、プロジェクトの中止後に特許庁へ同費用を全額返還しています。
以上の経緯から、特許庁にとっては費用面での損失は実質ゼロとなったわけですが、本来ならばシステム化により達成できた効率改善は果たされず、また8年という長い月日を無為に過ごしています。この間、旧システムをそのまま使い続けており、その運用保守にも費用が掛かっており、なおかつ効率化が果たせなかった時間的損失で見た場合、同プロジェクトの失敗による損失は計り知れないことが指摘されています。
一方、開発を請け負った東芝ソリューションから見れば、開発費用はすべて自己負担する羽目となり、実績どころか汚名だけを作るという苦い結果を味わっています。特に入札の経緯から、できもしない案件を低い入札額で受注した挙句、結局開発しきれなかったという結果から「入札妨害に過ぎない」という批判も、2012年当時に聞かれました。
仲介コンサルタントの責任
一体何故このプロジェクトは失敗に終わったのか。
一見すると、身の丈を超えた大きなプロジェクトを安値で請け負い、案の定完遂できなかった東芝ソリューションの技術力の低さばかり目に尽きますが、業界関係者の間ではむしろ、発注側の特許庁に問題が多かったと指摘する声が多いです。
同プロジェクトでは特許庁側で業務のシステム化に明るい者が少なく、また開発方針も入札以降にもたびたび変更するなど要件定義がはっきりされず、マネジメント面で問題が多かったことが、後に出された検証記事などで指摘されています。
特に、本来ならばこうした事前の要件定義方面で開発請負業者との橋渡しを果たすため高い報酬で雇われたアクセンチュアに対し、その本来の責務を果たしていなかったと厳しく批判する声も見られます。実際、その後の検証記事を読む限りでは発注側である特許庁のニーズをうまく汲み取れず、開発請負側へ伝えきれていなかった点がよく指摘されており、この観点に立つならばプロジェクト失敗の最大のキーとなるのはアクセンチュアだったという風に見えなくもないです。
<参照サイト>
・特許庁の基幹システムはなぜ失敗したのか。元内閣官房GPMO補佐官、萩本順三氏の述懐(Publickey)