【データ検証】生産台数世界一!中国の産業用ロボット市場の規模はどんな感じ?

花園 祐2024年1月21日(日曜日)

経済成長の鈍化懸念が広がる中、中国では近年、産業用ロボット市場が急拡大を続けています。その生産台数はこの約10年間において世界1位を維持し続けており、製造業全体では冷え込みが続きながらもさらなる拡大が期待されており、業界への融資案件も拡大する好循環が起きています。

そこで本稿では、世界最大の産業用ロボット市場ともいうべき中国の業界現況について、各種統計データを見ながらその全体像を俯瞰してまいります。

100億米ドル突破はもう間近?

まず金額ベースでの市場規模からみていきます。
中商情報網が国際ロボット連盟(IFR)と共同で行った統計調査によると、2022年の中国産業用ロボット市場規模は前年比16%増の87億米ドルでした。2019年以降は毎年二桁成長が続いており、2023年は13.8%増の99憶米ドルに到達すると予想され、100憶米ドルの大台への突入も間近と見られています。

生産台数は日本の1.7倍

続いて生産台数を見ていきます。
確定値が出されている2022年、中国の産業用ロボット生産台数は前年比21.1%増の44.31万台となっており、冒頭にも述べた通りこの台数は世界1位となっています。同年の日本国内の生産台数は11%増の25.68万台(IFR調べ)であったことを踏まえると、中国の生産台数規模は日本の約1.7倍に相当することとなります。

また近年の成長動向を見ると、市場規模同様に二桁成長が続いているのは当然ながら、2021年の前年比成長率は54.4%増と、急激な成長ぶりを見せています。背景理由としては中国の国家政策もさることながら、2020年からのコロナ流行を受け、中国製造業界で自動化ニーズが急激に高まったことが影響しているとみられます。

市場参入企業は急増ペースに歯止め

そうした市場規模、需要がともに拡大する背景の中、業界へ参入する企業数も増加の一途を辿っています。2022年の統計によると、中国の産業用ロボット企業数は前年比11.7%増の7.62万社となっています。

中国の産業用ロボット企業数はコロナの流行が始まった2020年が同85.7%増、2021年が74.9%増と急激に伸びており、前項でも触れた通り、コロナ下での生産体制転換ムードに合わせ市場参入企業が増えたとみるべきでしょう。

2020~2021年と比べると2022年の伸び幅は一気に落ち着いており、今後も伸び幅は10%前後で推移していくのではないかと推測されます。場合によっては市場淘汰も始まり、マイナス成長になるにはまだ早いですが、さらに一桁まで鈍化する可能性もあるでしょう。

こうした市場参入企業数の増加に伴ってか、中国国内の産業用ロボットの国産化率も向上傾向を示しています。2018年の国産化率は27.9%だったのに対し、2022年は35%と、4年間で7.1ポイントの上昇となっています。
ただ依然として外資比率が6割強を占めており、国産化率が高まってきている自動車市場と比べると、外資の優位がいまだ鮮明な業界にあると言えます。

中国市場シェアナンバー1はエプソン

では具体的にどの企業が中国市場でシェアが高いのか。結論から言えば、中小情報網の調査によると日系のエプソンが約20%で最大のシェアを占めており、次点は同じく日系のファナック(約15%)となっています。

このほか中国市場でシェア上位企業の中には、安川電機(約9%)、ヤマハ(約5%)、不二越(約3%)、三菱重工(約3%)、川崎重工(約3%)がそれぞれ入っており、日経全体が占める中国産業用ロボット市場シェアは、非常に高いものがあります。

中国系では、南京埃斯頓自動化股份有限公司(ESTUN)が3%、蘇州滙川技術有限公司(INOVANCE)が2%のシェアでそれぞれ上位企業の中に加えられており、同市場における有力企業と目されています。

全体景気は冷え込んでも、ロボット市場には春風が吹くか?

冒頭でも語った通り、2023年における中国の景気は非常に悪く、企業や業界を問わずにリストラや給与削減の嵐が各地で吹き荒れただけでなく、公務員への給与の遅配も目立つようになっています。中でも「世界の工場」ともいわれた中国の製造業では、かねてから高騰していた人件費への懸念だけでなく、コロナ流行を受けてのサプライチェーン再編の波を受け、中国から他国(主に東南アジア諸国)への移転が進んだ結果、大きな打撃を受けたとされます。

ただ製造業全体では落ち込みが目立つ一方、ロボット産業に関しては逆に注目が高まってきています。
背景には高騰した人件費対策としての自動化需要の拡大が一番大きいですが、現在中国では日本以上にハイペースで少子化が進んできており、労働者の確保そのものがかつてよりも難しくなってきています。安定的な労働力、というより生産稼働を維持するため、人手に代わるロボットの代替を企図する経営者が増えてきているように見られ、仮にこの推測が正しい場合、今後もロボット市場は拡大の見込みが高いと思えます。

中国政府もまたロボット産業への支援を近年強めており、特に最新のAIや通信技術を導入したスマートロボットの開発や生産に力を入れています。こうした支援の背景は言うまでもなく、国内で枯渇しつつある労働力を、ロボットで代替することを真剣に考えているからでしょう。

以上を踏まえ、外資大手に匹敵するような中国系リーディングカンパニーがいまだ現れていないことも考慮すると、日系企業にとって中国ロボット市場はまだまだ有望視できる業界ではないかと見えます。そのような有望市場の発掘に向け、今後も中国のロボット業界情報を折りを見ながら発信してまいります。

花園 祐

記者:花園 祐


花園裕(はなぞの・ゆう)中国・上海在住のブロガー。得意分野は国際関係、政治経済、テクノロジー、社会現象、サブカルチャーなど。かつては通信社の記者。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。