【失敗の本質】前評判では絶賛の嵐、でも市場で売れなかったトヨタ・iQ(後編)

ロボティア編集部2024年2月26日(月曜日)

ユーザーニーズにあまりにも逆行しすぎたか

日本においてそれまでになく、野心的なカテゴリーモデルであったとはいえ、「iQ」は何故失敗したのか。結論から言えば、ユーザーニーズにあまりにも逆行しすぎた点が多くの人から指摘されています。

まず一番ネックとなったのは、乗員数、荷物の搭載量に比して、高額であった価格帯です。前述の通り「iQ」は4シーターという仕様ではありましたが、荷室兼後部座席は非常に狭く、大人1人がぎりぎりで座れる程度のスペースでした。当時のユーザーコメントを眺めると、どう頑張っても大人3人子供1人が限度であり、ほぼ実質的に2人乗りの車両であったそうです。

当然ながら後部座席に誰も載せないにしても荷室スペースが限られることから、荷物はほとんど載せられず、こうした使い勝手の悪さはユーザーが購入をためらうウィークポイントとなってしまいました。

また同じトヨタが当時から販売していたコンパクトカーの「ヴィッツ」(現ヤリス)はというと、当然ながら「iQ」と比べ荷室は広く、また乗員も5人乗ることができました。それでいて価格は「iQ」と比べると20万円程度安く設定されており、「iQ」と比較すればするほど「ヴィッツ」の良さが感じられるような売られ方となっていました。

また「ヴィッツ」に限らず軽自動車とも比較した場合、「iQ」は軽自動車規格ではないため、当然ながら自動車税負担は重くなります。それでいて、エンジンパワーでこそ上回っていたものの、軽自動車よりも荷室が狭くて乗員数も限られることから、こちらの比較においても「iQ」の優位はあまり強くありませんでした。

総じて述べると、「iQ」の強みはその独特なスタイルが醸し出す「独自性」以外にはあまりなく、単純にコストパフォーマンスで見た場合、比較対象に完全に敗北する有様でした。こうした点を消費者に見透かされたこともあり、販売は大きく伸び悩んだといわれます。

購入後の反応にも気になる点

ただ実際に購入へと至ったユーザーの反応は、前評判同様に肯定的な意見が多く聞かれました。やはりその孤高ともいえる独自性に惹かれるユーザーが多かったようで、唯一無二の乗車体験を評価する声が聞かれました。

一方で、「都市部において小回りが利き、気軽に乗れるシティコミューター」としてのコンセプトに矛盾する欠点を指摘する声も見られました。具体的にはドアの仕様で、「iQ」は全長が短いものの、4人乗りとするため全幅は同時期の「ヴィッツ」の1695mmとほぼ同等の1680mmあり、それでいて「ヴィッツ」が4ドアであったのに対し「iQ」は2ドアでした。当然ながら「iQ」のドアはやや長目なり、その結果とした駐車場など幅の限られたスペースでドアを開け閉めする際は開き辛く、乗り降りし辛かったことが批判として挙げられています。

また乗り心地に関しては視界が良く、小回りが利く点には好評が集まったものの、上述の車体に対する全幅の広さから、高速時の走行はやや不安定だったという指摘も聞かれます。細かい点かもしれませんが発売後に販売が伸び悩んだ理由として、上記のような欠点がユーザーを通して伝わった点も影響したように思えます。

冒険をし過ぎたが故の失敗

前述の通り「iQ」は低迷したまま2016年に販売が終了し、またコンセプトを引き継ぐ後継車種も出なかったことから、プロジェクトとしてみた場合は失敗と言わざるを得ません。その失敗の原因を述べるとしたら、市場でこれまでにない新たなジャンル、カテゴリーを開拓しようと意気込んだものの、あまりにもユーザーニーズのない分野に飛び込んだという、「冒険をし過ぎた」点に尽きると思えます。

逆の見方をするとあの「販売のトヨタ」が、何故これほどまでユーザーニーズの低い分野で新車種を出したのかが、非常に気になるトピックになります。発売当時のことを私もよく覚えていますが、「あの車体にあの価格設定で、一体誰が買おうとするんだ?」ということを、よく周りにも話していました。その上で当時のトヨタの発表や説明を見ていると、やや開発した技術にばかり目が行って、販売方針やマーケティングにあまり目を向けていなかったような印象を覚えました。
前述の通り、「iQ」は評論家などからはその技術力が非常に高く評価されていました。それを受けてかトヨタ自身も「iQ」の技術力を当時盛んに喧伝しており、少し自分に酔っているかのような印象を私は受けました。

しかし言うまでもなく、技術力が高いからと言ってその商品が売れるとは限りません。むしろ、技術力で劣る商品がマーケティングで売上を伸ばす事例も少なくないだけに、この「iQ」に関しては若干トヨタが技術に肩入れし過ぎ、ユーザーニーズを無視し過ぎて失敗してしまったように見えます。

ただ失敗に終わったとはいえ、未開拓のジャンルに挑戦しようとしたトヨタの姿勢は称賛されてしかるべきだったと言えます。こうした試行錯誤を何度も経た上で新たな価値観というものは生まれるものであり、失敗したといっても、それを一方的に嘲笑うというのは間違いです。あからさまにやる気のないプロジェクトで失敗に至るのならともかく、「iQ」に関して私は、トヨタの本気さを感じることはできました。

そういう意味では、トヨタは「iQ」の失敗に懲りず、いつかまた「iQ」で培ったマイクロカーの開発を再開してもらいたいものです。もっともその際は、無理せず軽自動車のカテゴリーで作った方がよいのではないかと個人的には思います。

【失敗の本質】前評判では絶賛の嵐、でも市場で売れなかったトヨタ・iQ(前編)