【詳細】ドローンタクシーで注目を集める中国・Ehang社とは

ロボティア編集部2016年6月27日(月曜日)

 米ネバダ州で、ひとり乗り用ドローン(ドローンタクシー)の飛行テストを許可された中国企業イーハン(Ehang)。昨今のドローン業界における注目株として一気に浮上した同社だが、その正体についてはあまり日本で報じられていない。

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 イーハンの中国での企業名は「広州億航智能技術有限公司」だ。2014年に広州で設立され、現在、北京、上海、アメリカ、ドイツに分社を構える。

 主力商品は、アプリ操作が可能な一般消費者向けドローンとなる。中国国内ではあまり多くない、アプリによる操縦をコンセプトとしたマルチコプターを開発するメーカーだ。イーハンは操作をシンプルにすることで、より多くの人へ空中体験を提供することを目標にしている。2015年には4200万米ドル(Bステージ)の融資を受け、16ヶ月間で企業価値を100倍に成長させた。その成長速度は世界のドローン企業でもトップを誇る。

 2014年には米ビジネスマガジンの「ファストカンパニー」中国語版が発表した2014年中国最優秀イノベーション企業トップ50に、また2016年最優秀グローバルイノベーション企業、世界のドローン企業トップ3にも選出されている。

 イーハンの舵を握る経営陣は、商品の研究開発を担当する胡華智CEOを筆頭に、中国エリート集団と言っても過言ではない。マーケティング責任者であり、グローバルマーケティングおよびブランディング担当である熊逸放 CMOは、米デューク大学ビジネススクール卒業し、フォーブスの2015年30歳以下創業者カテゴリで30位ランクインした人物。なお熊氏は、スタンフォード大学が選出した、2013年グローバル100強創業者にもランクインしている。

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photo by Ehang

 財務、投資融資、政府関係、法務、人事など総合オペレーションを担当する萧尚文CFOは、米Rutgers大学法学博士で、米弁護士および会計士資格を持つ。一方、上級オペレーションマネージャーである祁衛氏は、清華大学コンピューター博士で、現在EMBA学位を取得中とのこと。レノボグループの副総裁を勤めた経験を持ち、スマホおよびタブレット内部システムの研究開発を担当していた。次いで、イーハンのグローバルオペレーションおよびマネジメントを担当する厳治慶COOは、マイクロソフトの大中華エリア副総裁や、マーケティングおよびオペレーション責任者を歴任している。

 さて、イーハンといえばやはり気になるのは、ひとり乗り用また「ドローンタクシー」と呼ばれるドローン「Ehang184」の存在だ。今年1月に開かれたCES2016で一部お披露目され、その後、世界で注目を集め続けている。

 イーハンは、Ehang184について交通渋滞を解消するための手段と言及。世界各国でプレゼンを行っている。同社、厳治慶COOは、中国メディアの取材について、次のように答えている。

「皆さんご存知の通り、初めの車が発明されてから現在までで12億台の車があり、その12億の内9億9000台がガソリンを使っています。環境への悪影響は非常に明確です。さらに世界の4分の1の車が中国にあり、北京では三環、四環、五環の道路の渋滞は皆さんご存知の通り。このような環境下で、空を飛ぶ乗り物が人々の移動のひとつになりえる。私が変えたいのは自動車業界であり、航空業界ではありません。飛行機は長時間、大陸間を安定的に飛ぶことができます。我々はこの領域はやりません。低空で車を飛ばし、自動車の都市への負担を軽減していく方向性です」

 厳COOは、テクノロジーの発展がそのような構想を現実に可能にすると考えている。

「この構想には可能性があります。まず、環境保護の観点ですと、我々が使用するのはすべてリチウム電池で、将来的にどんな新エネルギーを使っても航行時間を延ばせる可能性が充分にあります。次に、個人の視点で見て、我々は航空免許を取りに行くことはしません。自動車を自動化し、誰もが操縦できるようにしたいのです。私がマイクロソフトにいた16年間、ひとつの夢がありました、それは全ての机に一台のコンピューターがあること。そして我々が今実現したいことは、全ての家庭の屋上にイーハン184があることです」

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photo by Ehang

 イーハンは今後、物流、医療、そして旅行観光の各方面でプロジェクトを進めていくとしている。旅行についての構想はすでに具体的だ。例えば、東南アジアの島間の移動をEhang184で可能にしたいという。

「(東南アジアの島間の)距離は大体、20~30キロで航行時間は15分程度。Ehang184であれば問題ありません。さらに島間は海で障害物や民家がないため、もし何か問題がおきても多大な損失がでることはなく、とても良いトライアルになります。東南アジアの小さな島においては航空規制もゆるく、米連邦航空局(FAA)や欧州のような厳しい規定もありません。ですからこのような点と点のような場所から、我々の製品及びシーン別の実証実験を始めていきます」(前出、厳COO)

 イーハンはその他にも救急医療に注目する。人をすぐに災害現場に送り込んだり、病院に送り届けたりし、迅速な救急対応が可能にするというものだ。現在、米FAAおよび安全部門と法整備や実務の調整をはじめているともいう。

 ただ現時点でイーハンは、自社のEhang184の普及については、一歩ずつ地道に進めたいとしている。PCが普及し始めたとき同様、すべての人が当たり前のようにそれを使うまでは、しばし時間がかかるだろうというのが経営幹部の考えだ。現状、ドローンの80%の用途はまだ空撮であり、すそ野が広がり始めているとはいえユーザー層は狭い。イーハンは、そんなドローン産業に全く新しいユーザーを引き入れることを、「我々がすべきこと」と定義している。

「私がいつも考えていることは業界が消費者を動かすということ。コンピューター業界でもこれは同じでした。IBMは初めてPCを生み出した企業ですが、ピラミッドの上に立ち、少しずつそのすそ野を広げていき、ようやく変革につながった。我々が業界のエコシステムを作ることに注力している理由もここにあります。このエコシステムを作るには、さらに多くのパートナーが必要です。いろんな企業がともに努力していかねばなりません。我々(中国)は世界の70~80%の市場を持っているのになぜともに進まないのでしょうか?現状でドローン産業は数億の市場規模とまだ小さいです。我々がまず考えねばならないのはこの産業をどう大きくしていくかです。産業が成長すれば自社のポジションも生まれてくるでしょう」(前出、厳COO)

 DJIを生みだした中国で、破格のドローン企業がまたひとつ世界に名を轟かしつつある。その構想が実現するにはまだしばし時間がかかると思われるが、ドローンを愛する人々、そして今後はすべての人々にとって見逃せない企業となりそうだ。

▼イーハンの企業動向(反時系列)

2016-05 アメリカのバイオテクノロジー企業Lung Biotechnologyと15年にわたる共同研究開発で合意。

2016-04  最新版GHOSTDRONE 2.0空撮パッケージを発表。

2016-04 中国クラウドシステムイノベーション戦略連盟に加入、さらなるドローン業界の発展促進のためドローン技術及び応用専門委員会を設立。

2016-02 アメリカビジネス雑誌Fast Companyマガジンによる2016最優秀グローバルイノベーション企業、グローバルドローン企業3強に選出。

2016-01 2016 CESにて世界初の低空自動操縦人搭載型飛行機”億航184”を発表し世界の注目を集める。

2016-01  元マイクロソフト大中華エリア副総裁 厳治慶氏がCOOに就任。

2015-11 一号店を深圳にオープン。

2015-11 ドイツにオフィスを開設。

2015-08  Bステージとして金浦から4200万ドルの資金調達に成功。企業価値が法人設立後初めて100倍へ。

2015-08 元世紀互聯総裁兼CFO萧尚文氏 ファイナンス副総裁 劉剣氏,元レノボグループ副総裁祁衛氏,元マイクロソフト中国マーケット総督 王繹釣氏 4名の有名上場企業の役員が加入。

2015-07  必酷赛博BigCyberと提携し日本市場へ。

2015-07 グローバルラジコン企業Hobbicoと戦略的提携をし、ヨーロッパアメリカ市場へ。

2015-04  高德LBS+にプラットフォームを開放し戦略的提携。

2015-03  China Bang Award 2015年度ハードウェア企業に選出。

2015-02  北京にオフィスを開設。

2015-02  マイクロソフトのアクセラレータプログラムに参加。

2015-01  GhostがIndiegogo海外クラウドファンディングで86万米ドルを獲得し、中国のハイテク製品が海外クラウドファンディングで得た最高金額記録を達成。

2015-01  GhostがCES 2015で最優秀ドローンアワードを獲得。

2014-12 アメリカビジネス雑誌Fast Companyの2014中国最優秀イノベーション企業トップ50に選出。

2014-12  Google、Amazon、GoProと協力しドローン業界成長の促進を後押しするためSmall UAV Coalition(小型ドローン連盟)に加入。

2014-12  GGVよりAステージとして1000万米ドルの資金調達に成功。

2014-09 億航のドローンがシリコンバレーのハイテクイノベーションサミットにてInnovation Starを獲得。

2014-09  アメリカのTech Crunch上で最も人気のあるスタートアップ企業においてグランプリを獲得。

2014-09  GhostがMEIZUのconnect to Meizu計画初のスマートデバイスとして選ばれMX4とセット販売。

2014-09  アメリカ カリフォルニア州にオフィス開設。

2014-08  一般開発者向けに無料でSDKを公開。

2014-05  Ghost がスマート空中ロボットとしてクラウドファンディングで70万元を獲得。

2014-01  PreAngel、楽搏資本、真格基金等から数百万元のエンジェル投資を獲得。