スマートロボット×物流の未来とは!?オンタリオ州の最新事情

ロボティア編集部2016年7月25日(月曜日)

北米最大の自動車生産地域

 トヨタ・ホンダ・GM・クライスラーなど世界の自動車メーカーが操業しているカナダ・オンタリオ州は、北米最大の自動車生産の地域の一つとして知られております。厳しい市場競争にさらされる中で、自動車関連工場のオートメーション化など生産技術の高度化がなされてきましたが、その技術が今、ロボット産業の成長を支えています。実際、州内ではオートメーション・ロボティクス関連の企業は350社以上あり、また、38の総合大学・カレッジで、ロボット関連のコースが提供されているなど、オンタリオはカナダ最大のロボット産業の集積地となっています。

 カナダ・オンタリオ州のウォータールーに拠点を置くクリアパス・ロボティックス社(Clearpath Robotics Inc.)内では、何でもない外見の長方形のロボット、「オットー(OTTO)」が発信するメロディカルなビープ音が聞こえてきます。このロボットは、くるくる回転したり反転したり、止まったり動き出したり、製造フロアーで従業員の周りをぐるぐる動き回ることができます。

 しかし「オットー」はよくある、ありふれた産業ロボットとは一線を画しています。正式には「自立型マテリアル・ハンドリング・テクノロジー」と呼ばれ、倉庫保管および流通作業に「スマート・シンキング」の要素を付け加えるよう特別に設計されているのです。

 倉庫で使われるロボットは何ら真新しいものではありません。ものをつまみ上げて箱に詰めるだけのロボットというのは世の中に数多く存在します。これらのロボットは、棚の間を動き回って品物を選択し、大きな容器に入れるという作業を行っています。あるいは決められたレーンの上を、在庫品を持ち運びながら動き回る無人搬送車(AGV)というのもあります。さらには、ストーレジ区域内でコンテナを動かす役割を担う巨大なガントリークレーンもあります。

 しかしながら、今やこれらのワークホース・システムは、光学センシングや、人工知能(AI)、センサー技術などの進展により、従来よりもはるかにインタラクティブかつ高い生産性を備えたロボットへと変わりつつあるのです。

スマート・ロボットが物流ビジネスにもたらす価値

 もの珍しさという点を越えて、最新のインテリジェント倉庫ロボットは、大きなビジネス価値をもたらします。これらのロボットは、複雑さを減らし、コストを削減すると同時に、より高い正確性を有するため、企業の競争力の維持に役立ちます。現在の物流業界が抱える課題-労働者の高齢化、労働力不足、高い離職率など-の解決にも貢献できるかもしれません。また、作業員の作業中の怪我のリスクを減らせるという利点もあります。

「最新のロボット工学のイノベーションについては実用化への期待が高く、倉庫施設などでの利用が有望視されています。ロボット市場は、世界で最も退屈で、汚く、危険な仕事をオートメーション化することでけん引されています。それによる経済的なメリット、人的恩恵は紛れもありません」と、クリアパス・ロボティックスのインダストリアル・ソリューションズ担当、サイモン・ドレクスラー取締役は述べています。

ハイテクで起業、実用的なイノベーションにつなげたクリアパス社

 当初、クリアパスの計画に、倉庫ロボットの事業は含まれていませんでした。同社はもともとメカトロニクス専門の学生チームが主体となり、2010年に調査用無人機の開発をきっかけに起ち上げられたベンチャーです。彼らはすぐに、同じ技術を宇宙研究や鉱山マッピングという高邁な分野から、もっと一般的な分野へと適用できることに気が付きました。

「当初、当社は操作ロボットや組み立てロボットを研究していました。問題は、これらのロボットは、固定的で応用がきかない、受動的に反応するが能動的な行動がとれない、変化に弱く適応力に欠けるということでした。当時のロボットは、工場側がロボットの仕様に合わせなければならず、ロボットが工場の環境・必要性に適応することはありませんでした」とドレクスラー氏は言います。

障害物を自動検知、次のアクションを自ら判断する 「オットー」

 倉庫ロボット「オットー」は、高度な内部構造により、指定されたレーンに従って作業するだけでなく、それ以上のことが実行可能です。実際に、人間がどこにいようとも、このロボットは人間の隣や周辺で仕事をすることができます。なぜなら、「オットー」は、内蔵されたセンサー技術により、人や機械などの障害物を検知し、「いつ停止すべきかどうか」あるいは「選択したルートを変更すべきかどうか」などを、自ら判断することができるからです。

 物流のインダストリー4.0をけん引するオンタリオ州の強み

 クラウド・コンピューティングやモノのインターネット(IoT)、モバイル、ビッグ・データといった、多くの相互接続されたテクノロジーのおかげで、現代のロボットの技術は、より実践的なレベルへと引き上げられているとドレクスラー氏は指摘します。

「例えば、もしも携帯電話が存在しなければ、我々はオットーを作っていなかったでしょう。携帯電話に使われているリチウムイオン電池の開発が大転換をもたらしたのでした」

 こうした動きの中にいるプレーヤーは、クリアパス社だけではありません。オンタリオ州グリムスビーにあるシムコープ・オートメーション社(Cimcorp Automation Ltd.)のリック・トリガティ社長によると、この業界では、倉庫管理、流通、製造において多くの包括的で徹底したソリューションが見られるといいます。そして、同社の開発事業を支えるために必要なリソースが地域で不足していることはないといいます。

「当社は、巨大な自動車産業、鉄鋼産業を基盤とした地域に拠点を置いています。部品や原材料などを調達するにあたり、地元にはリソースが豊富にあります。自動車産業に供給する多くの機械工場があり、彼らは取引の獲得に積極的です。さらには、ハイテク分野の優れた労働人材も揃っています。オンタリオにはエンジニアリングとテクノロジーのコースをいくつも備えたカレッジと4年制大学が少なくとも7校あり、優秀な人材が輩出されています」と、トリガティ社長はオンタリオ州のロボット産業の環境について強調します。

 こうした要素のすべてが集まることで、まったく予期しないような魅力的なロボットのイノベーションにつながっているのです。ドレクスラー氏が言うように、「インダストリー4.0は物流の世界にも到来している」のです。

おわりに

 このように、オンタリオ州には、インダストリー4.0時代のロボット開発に必要とされる様々な要素が揃っています。パートナー企業の開拓や研究機関との共同開発など、様々な連携のあり方が可能です。日本企業の皆様にも大いに貢献できると期待しております。

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■寄稿者プロフィール

ロバート・A・アルマー(Dr. Robert A. Ulmer)
オンタリオ州政府在日事務所代表 兼 カナダ大使館参事官(商務)。オンタリオ州トロント出身。30年余年の間、日加間の国際ビジネスをはじめ、幅広い分野にわたり、日加交流の架け橋を担う知日派。2006年から現職。

オンタリオ州政府在日事務所について

オンタリオ州政府在日事務所(Ontario International Marketing Centre、東京都港区カナダ大使館内)は、日本とオンタリオ州の貿易・投資促進を図る目的で2006年2月に開設されました。同在日事務所は、日本企業の投資誘致活動、オンタリオ企業・輸出業者への支援、日本の行政・媒体関係者の協調関係を深めるなど、様々な活動を通じてオンタリオ州の産業、ビジネスを紹介し、日加間のビジネス交流・貿易の促進に取り組んでいます。