【北欧発】看護師ロボット化の先にある「中間管理職不要社会」

ロボティア編集部2016年10月13日(木曜日)

 フィンランド・ビジネス政策フォーラム(EVA)の報告書によると、近い将来、ロボットと人工知能の進歩によって企業の中間管理職は不要になり、看護師の仕事の5分の1はロボットで代替できるようになるという。

 北欧最大のIT企業・ティエト(Tiet Corporation、フィンランド・ティエト)のインダストリアル・インターネット部門を率いるタネリ・ティッカ(Taneli Tikka)氏は、「人工知能(AI)は単に資源の優先活用を人間よりうまく設計できる機械」と語る。とはいえ、ロボットの急速な進歩は、とりわけ中間管理職を多く抱える知識ベース組織(知識のデータベース化の進んだ組織)を根本から変えようとしているという。

「AIやス他のスマートアプリは、中間管理職の業務である勤務表の作成、報告・管理、業務管理の他、従業員の能力査定、欠勤・勤務時間のチェック、作業計画・事業計画の作成などを効率的かつ確実に行える」(ティッカ氏)

 しかし、これらの業務をロボットにさせた場合のコスト効率の良さだけが、中間管理職をロボットに置き換える理由ではない。ティッカ氏は次のように説明する。

① 全ての従業員が業務を整理でき、より効率的に働けるようになる
② 従業員の自律性と自己管理能力は高まる
③ 従業員はより多くの時間をかけて、何をすべきか、なぜすべきかといったことを考えて、意思決定するようになる
④ 経営陣は組織の文化や価値の創造に傾注するようになる

「これらの変化は、長期的にはさまざまなレベルの専門家から成る組織を、前線の従業員と専門家・上層部から成る組織に変えるかもしれない」(ティッカ氏)

 ロボットの進歩は病院や介護施設で働く看護師の仕事や、労働環境も根本から変えようとしている。そう予測するのは、経営コンサルタントのクリスティーナ・アンダーソン(Cristina Andersson)氏と、東フィンランド大学(University of Eastern Finland)看護学部の非常勤教授マリ・カンガスニエミ(Mari Kangasniemi)氏だ。両氏によると、長期高齢者介護施設では、今後2~3年のうちに看護業務の少なくとも5分の1が自動化やロボットで代替可能になるという。

「今日利用できるテクノロジーは患者の移送や物品の運搬、バイタルサインの記録、薬の調剤や与薬などに適している。また、ロボットは誤薬を減らしたり、患者に対する安全性を高めたりすることが示されている」(カンガスニエミ氏)

 またふたりは、病院や介護施設へのロボットの導入によって、人間の看護師がより多くの時間を本来の看護業務にあてることができるとみている。本来の看護業務である直接患者ケア(患者のベッドサイドでの看護や心のケア)を行うのは現在、週5日のうち3日に満たない程度だ。現在の技術をより効率良く活用することによって、4日まで増やせるという。

 報告書はまた、自動化が多くの失業者を生むという心配を払拭している。フィンランド経済研究所(ETLA)の首席研究者アンッティ・カウハネン(Antti Kauhanen)氏は、「テクノロジーの進歩が大量の失業者を生み出すのは、仕事を作り出すよりも仕事を奪うほうが多い場合だ。経済の歴史を見れば、テクノロジーの進歩によって仕事は奪われるより作り出される方が多かった」と指摘する。

 その上で同氏は、フィンランドでは自動化で奪われる恐れがあるのは、全職種の7%に過ぎないというOECD(経済協力開発機構)の報告を引用。他のOECD加盟国(エストニアと韓国を除く)に比べ、7%という割合は低い。これは、フィンランドの製造工程自動化の程度が比較的高いことと、高学歴の労働力の割合が高いという要因による。

 同氏は「ロボットの導入は、労働力の再分配、つまり人間と機械とで新たに労働力を配分することにつながる」と予測。「社会にとって有意義なのは、自動化で労働生産性の向上が期待できることだ。つまり、新たな同僚(ロボット)によって、最終的には社会は豊かになる」としている。

 アンダーソン氏とカンガスニエミ氏も同様に、看護師の需要は減ることはないと予測している。今後、人口構造が変化するため、2026年までに全医療従事者の需要は10%、高齢者介護に携わる医療従事者の需要はほぼ20%増える見通しだという。

photo by yle