チョムスキーvs.レイコフ…言語学が握るAIロボットと人間の共存

 チョムスキーの形式論理学の領域では、脳はデジタルコンピュータであり、汎用的なソフトウェア。脳と一体化した身体と心とは別個のコンピュータプログラムとして扱われる。

 続いて注目すべきは、アラブ首長国連邦のUAE大学の研究チームが開発予定の人工知能ロボットだ。開発にあたってジョージ・レイコフ(George Lakoff)の“身体化認知”を参考にするとハリージ・タイムズ(Khaleej Times)により報じられている。

 ここで、ジョージ・レイコフとはノーム・チョムスキーとは真逆の立場をとっていることで知られる認知科学者だ。一応チョムスキーの教え子でもあり、MIT在籍時には数学や英語学を受講した。チョムスキーが提唱する言語理論に対し次第に反感を覚えるようになったレイコフは、最終的にチョムスキーと対極をなす新たな言語理論を打ち出すに至った。

 それが“身体化認知(embodied cognition)”というわけだ。レイコフにとって「心」と「身体」はそれぞれ独立した存在物ではない。レイコフいわく、我々人間は身体を通した経験に基づき意味付けを行おうとしているのであり、例えば我々が発するメタファーは身体的経験に基づく表現に他ならない。哲学者マーク・ジョンソン(Mark Jonson)との共著『Metaphors We Live By(和訳タイトル:レトリックと人生)』は、西洋哲学的な思想から脱却した新メタファー論の誕生のきっかけとなり、後世の言語学者に多大な影響を及ぼした。

 さて、ロボット研究の話に戻るとする。UAE大学の哲学者マシミリアーノ・L・カプチーノ(Massimiliano L Cappuccio)博士と、ロボット工学者のホセ・ベランゲー(Jose Berengueres)博士率いる研究チームが思い描いているのは、言葉のやりとりなしに人間の感情や意図を読み取ることのできるロボットだ。

大澤法子

記者:大澤法子


翻訳者・ライター。1983年、愛媛県生まれ。文学修士(言語学)。関心分野は認知言語学、言語処理。医療・介護分野におけるコミュニケーションに疑問を抱いており、ヘルスケアメディアを中心に活動中。人間同士のミスコミュニケーションに対するソリューションの担い手として、ロボット・VRなどがどのような役割を果たし得るかを中心に追及。

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