1月初旬、米国言語学会2017年年次大会が、テキサス州オースティンにて開催された。今年も毎年恒例の賞の授与が行われるなか、2017年若手研究者賞を獲得したのは米国のデラウェア大学のジェフリー・ハインツ(Jeffrey Heinz)氏だ。
若手研究者賞は2010年に創設された賞であり、言語学分野で博士号を取得後10年以内の若手研究者のうち、特に際立った業績を収めた者を対象に毎年贈られている。
ハインツ氏はメリーランド大学にて数学および言語学を専攻。その後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校に進学し、2007年に言語学領域で博士号を取得した。大学院修了後はデラウェア大学に所属。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health=NIH)の研究プロジェクトを通じて、小児科のリハビリに革命を起こすヒューマノイドロボット「NAO」の開発にも従事している。
ハインツ氏の専門分野は音韻論だが、人工知能やロボット領域と密接な関係にある機械学習も研究分野のひとつだ。計算言語学、コンピュータ科学へと通ずる形式主義、その他の言語理論を総合的に分析する姿勢が高く評価され、今回の受賞へと至った。
ハインツ氏が機械学習にこだわる背景には理由があるようだ。以下、AI・ロボット分野における言語研究の重要性を説いている。
「コンピュータによる音声パターンに対する分析結果は、人間の言語パターンを予想するうえでの指標となり得る。逆に、人間による言語習得メカニズムを観察することで、経験を通じて学習するロボットの開発に役立つヒントが見出されるだろう」
彼自身、幼稚園に入るまでの子供が母語を習得する際に見られる音声パターンを研究している。例えば英語の三単現の「-s」の発音だが、英語話者が生まれた時から誰からも教わらずに自然と「s」か「z」かどうかを体得していくケースを指摘したうえで、コンピュータによる音声パターンもまた人間と同様、考えている以上に単純であると結論づけている。
とは言え、発話行動自体はそう単純なものではない。これから話す内容に対する計画プロセス、思考プロセス、注意プロセス、舌や唇を動かすプロセスなど、複数のプロセスのうえで成り立っていることを心に留める必要がある。
ハインツ氏は近年急速に進歩しつつある自動運転技術も考慮の対象とするなかで、静的な環境のみならず、動的な環境での対応を可能にするロボットの開発を提案している。そのようなロボットを開発するにあたり重要になってくるのが「移動」の概念であり、例えば言語学者レナード・タルミー(Leonard Talmy)の理論が浮上するだろう。言語学的アプローチを通じて生まれる新たな知見に注目したい。
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