各産業分野で稼働するロボットの自律性は徐々に高まりを見せているが、実際には人間の助けが必要なケースがまだまだ少なくない。そのため、多くのロボットエンジニアたちは、人間が簡単にロボットを制御できる新たな方法を模索している。
ニューヨーク工科大学ジャレッド・アラン・フランク(Jared Alan Frank)研究員らの研究も、そんなロボットと人間を繋ぐ試みのひとつだ。フランク氏らは、拡張現実(AR)技術を活用。スマートフォンやタブレットを通じて、ロボット制御を行えるインタフェースを開発している。
フランク氏が開発しているシステムを応用・拡張すれば、工場などの環境で複数台の群集ロボットを簡単に制御・操作することが可能となる。同システムは、カメラを通じて作業シーンの詳細情報を取得。AR技術で仮想オブジェクトをオーバーレイし、その画面をタップすることでロボットを制御できる。
フランク氏らは、Appleのソフトウェア開発プラットフォーム「Xcode」を使用。実際の環境からロボットと対象を検出し、座標系と仮想グリッドを生成して画面から追跡できるプログラムを作った。ユーザーはデバイス内の対象を操作することで、ロボットが必要な作業をこなすよう観察することができる。
プログラムの指令はWi-Fi経由でロボットに伝達される。現在のバージョンでは、メインコントローラとしてはラズベリーパイが使用されている。フランク氏は同プロジェクトの強みとして、「これまでロボット工学者が使用してきた高価な実験装置を必要としない」という点を強調している。
フランク氏らは、開発したアプリが周囲の環境を把握できるように、ロボットとロボットが動かす対象に視覚タグを配置する。スマートフォンやタブレットのカメラを使ってシーンをキャプチャすると、アプリがタグを検出する。基準マークとも呼ばれるそれらタグは、物体を仮想世界に統合するためにARアプリケーションでよく使用される。
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この技術の核心は作業のしやすさとモビリティーだと、フランク氏は説明する。汎用的なモバイルデバイスを使用して群集ロボットを制御できれば、さまざまな環境における実験がより容易になるということだ。
フランク氏らは今後、建設現場や工場などの場所で同技術をテストすることを目指す。そのビジョンは非常に明確だ。
「私たちが望むのは、ロボットを制御するのに難しさを感じている人が、ポケットから(制御装置を)取り出して簡単に操作できるようにすることだ」(フランク氏)
今後の課題は、さまざまな現場で安全かつ確実にロボットと制御インタフェースが動作するよう、ソフトウェアとハードウェアを改善することだ。また最大限、システムに簡単にアクセスしロボットを制御できるようにする必要がある。
ロボットと人間を繋ぐインタフェースは、さまざまな技術をベースにして生まれてくる可能性があるが、フランク氏らが研究しているように、仮想世界を再現できるAR技術がその一端を担うことは間違いなさそうだ。
photo by NYU Tandon School of Engineering