スタイラーCEO・小関翼氏に聞くニューリテールとファッション・アプリ「FACY」

ロボティア編集部2018年11月8日(木曜日)

■全知全能の筈だったアマゾンの限界...知らずに活用していたニュー・リーテル

アマゾンは便利だ。本だけでなく、洋服をかけるハンガー、飲料水など、大抵のものは自宅に届けてくれる。大げさな物言いになるが、万能、全知全能感するあるアマゾンのサービス。ただ、そのアマゾンでも手の届かない、苦手の分野とするサービスがある。

その実例をここではまず、昭和生まれの本好きな自分が実感する、ユーザーとしてのアマゾン体験を通しシェアしたい。新聞の書籍広告か、書評欄で興味のある本を見つけても、昔と違って、すぐにその書籍名と著者名を書き取って、最寄りの書店に行くことをここ数年は全くしなくなった。大抵の場合、まずアマゾンで調べる。ベストセラーなど、テレビや新聞で何度も紹介されているような本、内容が確実に分かっている古典の名作などは迷わず、アマゾンを通し購入する。その一方で、価格が5千円以上する高価なもの、専門書の類いは必ず、書店に行き、手にしてから買うかを決める。アマゾンにも本の内容の一部を閲覧できるサービス機能がついているものの、やはり高価なものは手にした上でないと購入を決められない。流石のアマゾンも自分に代わり、本を手に取り購入を決めるか否かの判断はしてくれないからだ。

こうした体験をITに詳しい友人に話したら、「君は無意識のうちに、小売業におけるオンライン(EC=electronic commerce=電子取引)とオフライン(実店舗)の活動を統合したニュー・リテールの活用をしている」と言われた。

■日本で300店舗、台湾で220店鋪と提携しているFACY

最初はネットで調べても、自分が買いたいものに100%の確信が持てない場合はやはり、手に取って見たくなるのが人情だ。それが高価なものとなれば、尚更、その傾向は強くなる。そんな消費者の求める、痒いところに手が届くようなサービスをスタイラー株式会社CEOの小関翼氏は、ファッション・アプリを通し実現する。顧客は同社が提供するファッション・アプリ「FACY」に、何が欲しいのかを投稿する。「職場にも着て行けるコーデュロイのズボンが欲しい」「オンオフで使えるバックが欲しい。でも、PCが入れられるもの」等々。顧客であるユーザーは自分が欲しいもの、求めるものを同社が運営する「FACY」 に書き込みの形で投稿する。

「FACY」のプラットフォーム(スタイラー株式会社提供)

実際の品物を持っている店はこれに応える形で、自社のおすすめ品を提案する。顧客はアイテムを選び、色やサイズについて店側とやりとりした後で決めて、実際の店舗に行って買ってもいいし、自宅に配送してもらってもいい。「FACY」 を通し、店舗は顧客の要望に応える形で直接コミュニケーションを取りながら問題を解決していく。

2015年12月に立ち上がった「FACY 」は現在、1カ月に70万人が利用し、国内外の大手アパレルを含む300店舗が参加している。今年2月から展開を始めた台湾は、短期間ながら、すでに220店舗が参加しているという。小関氏は「殆どのユーザーはEC と実店舗を使い分けている」と話す。EC で買い物する時はシャツとか靴下とかいった2、3千円で買える安価のコモディテイ(汎用品)を買い求める人が、最終的に商品を手に取って購入することができる「FACY」のアプリを使い購入する場合は平均で2万円使うという。「これといった正解のない、抽象的なニーズを探しあてる為にお店に行く」と、小関氏は分析する。

だったら、最初からお店に行って、欲しいものを探せばいいじゃないかという議論も出てこよう。しかし、小関氏は「お店でのユーザーへの対応も改善の余地が大いにあり」と、ここで問題提起する。

「どこに何があるかはインターネット上からも分からない。だいたいが行ってみたところ勝負。電話して、店頭に並ぶ商品を問い合わせ、予約した日時に出向き、スムーズに商品やサービスが提供されるとか、お店にある商品を自宅に発送してもらうということは殆どの店舗でできない。でも、これもインターネットを使うことで可能になる」

顧客の要望、課題を解決することで直接コミュニケーションを取れる「FACY」のプラットフォームを使うことで、「インターネット上でもオフラインでやっているような顔の見えるコミュニケーションが可能になる」と小関氏は力説する。

■追い風となったスマートフォンの普及...広がるニュー・リテール

さらにオンラインのECとオフラインの実店舗の垣根を低くしたのがスマートフォンの普及だ。小関氏によると、2011年には14.6%だったスマートフォンの所有者が2016年には56.8%と約5倍に増えた。1990年代から全世界で普及したパソコンは「家の中にいながら」消費が楽しめることを可能にした。ただ、パソコンの前に座らなければ、インターネットの恩恵も享受されず、店舗がECによって置き換えられた点だけが強調された。

2010 年から全世界で爆発的にヒットしたスマートフォンは人間の移動とセットだ。家にあるパソコンの前に座らずとも、スマートフォンを片手に移動もできるので「常時繋がりなら」消費を楽しむことを可能にした。オンラインであるスマートフォンとオフライン(実店舗)がより積極的に、時には同時進行で関われるようになった。日本でも9割が小売店での流通であることを考えると、オンラインであるECとオフラインである実店舗を組み合わせるニュー・リーテルのシステムは合理的だ。

一昔前までは、センスのあるとされているファッション編集者が広告費をもらって衣服を並べるのが実情だった。小関氏はその逆を突いた。ユーザーの投稿などから、今、何が求められているかのデーターはふんだんに持っている。そして、それがどの小売店に置かれているかの情報も合わせ持つ。そうしてプールした一連の情報を元に「FACY」のプラットフォーム上に掲載する記事も自社の編集チームで作成しているので、これまでのファッション編集者が「これがトレンドだ。流行だ」と勧める、上から目線のやり方とは著しく異なる。あくまで顧客が欲しいもの、そうなったらいいなという要望が商品の提案の根底にある。

スタイラーのファッション・アプリ「FACY」は英語の“面と向かって”を意味する「Face to Face」からヒントを得たという。小関氏は「誰かに何かを聞いて、それで納得して、物が買えるということを目指している。ユーザーはそういうものを求めている」と話す。筆者が完璧、全知全能の顧客中心のサービスを提供していると思ったアマゾンのサービスよりも更にきめ細かやなサービスを小関氏は「FACY」を通し提供しようとしている。売り手である小売店と、買い手である顧客を「FACY」は繋ぐ。コミュニケーションがより密になれば、双方にWin-Winの関係が築かれていくだろう。

■取材/文  本田路晴
1962年、米ニューヨーク州ニューヨーク市生まれ。大学卒業後、広告代理店勤務を経て読売新聞社に1988年入社。特派員として1997年8月から2002年7月までプノンペンとジャカルタに駐在。2004年の退社後はシンガポール、ラオス、タイ、ベトナムと東南アジアを転々とする。その間、国会議員の政策秘書も経験する。東南アジア滞在歴は足掛け10年。様々な視点から同地域をウォッチし続ける。

※取材対象:小関翼CEO(トップ写真はスタイラー社にて撮影)