冷凍銃にワシまで…「アンチドローンシステム」技術と課題まとめ

ロボティア編集部2017年1月24日(火曜日)

 市販・流通する数が増えるにつれ、ドローンが社会の脅威となるシーンが増えはじめている。世界各地では、原子力発電所など接近禁止区域にドローンが進入したり、テロや盗撮などの被害例が続々と報告されはじめている。最近では、イスラム国(ISIS)が市販のドローンに手榴弾を搭載し、戦線に投入し始めたという報せも聞こえてくる。また、世界各国の警察資料からも、ドローンを使った犯罪が急増傾向にあることが徐々に明らかになりはじめている。

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 そんな、ドローンの爆発的な拡散に伴い、「アンチドローン技術」が注目を浴びる。アンチドローン技術とは、飛来するドローン犯罪を抑止するセキュリティ技術全般を指す言葉である。

 一般的に、アンチドローン技術は、これまでの空中防衛技術の3段階である空中監視、識別、迎撃というプロセスをドローンにあてはめ、「検出、識別、無力化」を達成するため開発が進められている。つまり、入ってはいけない空域に侵入した小型飛行体を検出し、ドローンなのか鳥など他の飛行体なのか識別して、もし違法なドローンだった場合に無力化=脅威を解消するという流れである。

 すべての段階がそれぞれ重要な意味を持つが、なかでも最も重要で難しいのは、「検出」だ。ドローンを実際に飛ばすと、思ったよりもドローンは小さくまた静かに感じる。約100m上空に上がってしまえば、操縦者でさえ目視で確認するのが困難になる。もしそのドローンが、各国で法律的に規定されているギリギリの高度(日本の法律では150mまで)を飛行すれば、検出はさらに困難である。また、その高度制限を守らずにとある領域に侵入したとすれば、セキュリティ担当者にはこれを検出するのがほぼ不可能となる。

 2015年に日本の首相官邸屋上にもドローンが飛来したが、発見されたのは13日後だった。最も厳しいレベルのセキュリティを誇る首相官邸でも、ドローンを検出することができなかったのだ。仮にドローンを無力化することができたとしても(世界各地ではドローンを無力化する技術が次々と発表されている)、まず侵入を検出できなければ、セキュリティ技術としてはまったく意味をなさない。

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 ドローン検出技術は、大きくアクティブ(Active)方式とパッシブ(Passive)方式に分けられる。アクティブ方式はレーダーを利用するもので、現在、ドローン検出技術としてもっとも注目を浴びている。世界有数の防衛産業関連企業が、既存の防空レーダーを改良し、超小型ドローンを検出する技術を開発している。レーダーが低高度の航跡(飛行機や船が通過した後に生じる雲や波に残る筋など)を検出すると、高性能な電子光学赤外線装置(EOIR)カメラが、その航跡を拡大して写真を撮る。

 このとき、オペレーターは、画像を通じてドローンかどうか識別。電波妨害装置などを発射してドローンを無力化するという流れである。レーダー探知装置の利点は、検出距離が非常に長いということ。最大検出距離は3〜10㎞、最大識別距離1〜3㎞まで達する。早期にドローンを検出することができ、十分な対応時間を確保することができる。

 ただ、レーダーを使った検出・検知にはいくつかの致命的な欠点もある。そのひとつが、死角が非常に多いということだ。レーダーが持つ特性上、設置された場所よりも低い高度、また領域は検出できない。また、レーダービームが遮蔽されると、その後方が死角となる。建物や丘がある区域では、検出ができない地域が非常に大きくなる。

 そもそも、レーダーの近接検出能力は非常に低い。一般的に、装置から約50m以内にドローンが近づくと、レーダービームの照射角が非常に狭くなり、実質的に検出視野から消えることになる。そのため、レーダー単独では完全なドローンの検出は不可能であり、このような死角を補完するためにレーダーの配置数を増やすことが必要となるが、そうなると設置・管理コストは爆発的に増加してしまう。

 レーダーが持つもうひとつの問題は、機体の特定をあくまで人間に依存する必要があるという点である。レーダーは、空で動くものすべてを検出する。そこにはドローンの他にも鳥が含まれる。そして、レーダー自体はそれらを区分することができない。高性能カメラで撮影した画像は、あくまでもオペレーターが識別しなければならない。

 そのため、レーダーでセキュリティソリューションを運用するためには、24時間体制で人員を配置する必要が出てくる。これは人材運用とコスト面で非効率的だ。また、鳥を検出して警報を鳴らしてしまう場合がほとんどだという。つまり、誤検出率が非常に高く、翻って言えば、実際にドローンが現れた際に識別するオペレーターの注意が散漫になる可能性が非常に高い。海外では軍のレーダーセキュリティーシステムが、鳥の大群をドローンと誤って検出した例も報告されている。

 現在、画像を識別する人工知能技術、主にディープラーニングの分野ではさまざまな成果が報告されているが、それらテクノロジーとの掛け合わせも必要となってくるかもしれない。

 一方、パッシブ方式はドローンの特性を検出する方式だ。なかでも最も効率的な方法として、ドローンの無線通信を検出する技術が注目を浴びる。ドローンと操縦者間の操縦信号と映像信号の送受信は、特定の周波数の無線電波で行われる。この通信を検出・識別することで、ドローンの侵入を事前に察知するというものだ。

 ただこの方法も、ドローンがGPSを使って自動飛行すると、完全に意味をなさなくなるという欠点がある。したがって、パッシブ方式では、ドローンの見た目やプロペラの音を検出・識別するための、映像および複合センサーが必要となる。まずドローンの無線通信を検出するように努め、検出網を突破された場合には映像や音響などの信号を検出することにより、検出率を高めるというものだ。

 パッシブ方式は、検出・識別を完全に自動化することができるという点で、アクティブ方式と対比される。すなわち、ドローン検出のためにオペレーターを運用する必要がないと言われている。ドローンの物理的・電子的特性をデータベース化するため、誤診率が非常に低いというメリットもある。また、ビーム照射するレーダー装置とは異なり、設置および運用時の法的障害も少なく、初期費用と運用費用も相対的に低い。

 ただパッシブ装置にも欠点がある。それは、検出距離が短く、対応時間を十分に稼ぐことができないということだ。現在、無線周波数検出装置の最大の識別距離半径1㎞ほど。映像・音響複合センサーで検出する場合には、検出距離が200m前後に急激に減少する。飛来するドローンからすると200〜1000mもかなり遠距離ではあるものの、テロの防御する必要がある施設からすれば、より遠距離で検出し、早期に警報を鳴らす必要がある。

 このように、アクティブ方式やパッシブ方式のいずれか単独では、完璧なドローン検出が事実上不可能である。もっとも効率的なのは、この2つを組み合わせた総合的なソリューションである。遠距離検出にはレーダーソリューションを使用し、レーダー装置の死角地帯は、無線周波数検出および映像・音響探知などで補完するというものである。

 数キロにわたる遠距離検出および早期警報を必要とせず、ドローンの侵入さえ分かれば充分な施設(刑務所、データセンター、研究開発施設)では、パッシブ方式のみでの検出でも事足りるだろう。レーダー装置は、価格が数億円かかると言われており、一般施設で使用するためにはコスト的に使用が容易ではない。

■アクティブ方式(主要技術:レーダー探知、映像識別)
IAI、RADA(イスラエル)
Blighter Systems(英国)
Airbus Defense(フランス)
Lockheed Martin(米国)
Robin Radar Systems(オランダ)

■パッシブ方式(無線周波数探知、映像/音声探知)
Dedrone(ドイツ)
Droneshield(米国)

 ドローンを検出・識別した次には、無力化のフェーズに入る。現在、ドローンを無力化する方法の中で最も確実とされるのは、ドローンを物理的、もしくは電子的に阻止する方法である。

 特に電波妨害方式(Jamming)が最も安全かつ正確な方法として注目を浴びる。電波妨害は、ドローンと操縦者間の無線通信、またはドローンのGPS通信を妨害することにより墜落、強制着陸、または強制的に帰還させる形を取る。

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 現在、この電波妨害方式を採用すれば、ドローンを確実に無力化させることができると言われている。一方で、各国には電波法が存在するため、重要施設などで使用を許可するための法律的調整も必要になってくる

 世界各国の軍隊では、電波妨害のほか、レーザー、散弾銃、電磁パルス(EMP)など火力を利用してドローンを破壊する方法も積極的に開発されている。これは、ドローンを確実に停止することができるという利点があるが、現実的には、飛行するドローンを狙い撃ちすることは非常に難しく、まだ技術も完成されていない。

 何よりも、ドローンを物理的に破壊するとなると、機体が炎上しながら落下してくることが想定される。つまり、人命被害や大型の爆発事故のような2次被害が発生する可能性もある。またEMPなどを使用すれば、ドローン以外の周辺電子機器が回復不能な状態になる可能性もあり、密集地域が多い国では使用が非常に難しい。

 物理的な無力化の他の方法としては、ドローンをドローンで撃墜・捕獲する方法も模索されている。以前、日本の警察がこの方法を紹介し話題となった。ドローンにネット=網を搭載して不法侵入したドローンを捕まえるというものだ。

 とはいえ、この方法を実践しようとすると、捕獲用ドローンを上手に操る熟練した操縦者(オペレーター)が24時間待機しなければならない。実質的に、現場に採用するには無理がある。このような問題を改善するために、離陸と捕獲を自動化したドローンの開発を進めるスタートアップもあるが、まだ製品化はされていない。

 余談だが、オランダでは猛禽類を動員してドローンを捕獲するという方法も模索されている。こちらは、警察が正式に採用を検討している。

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 さらなるドローン無力化の方法として、ジオフェンシング(Geo-Fencing)技術がある。これは、ドローンを運用するソフトウェアに飛行禁止区域やGPS情報を入力し、特定の地域では強制的に飛行できないようにする方法だ。世界で最も多く販売されているDJIのドローンは、飛行禁止区域で最初から始動さえせず、飛行中に飛行禁止区域に進入すると、警告とともに離陸ポイントに帰還する。ただ問題として、ジオフェンシングが搭載されていないドローンも非常に多いという側面もある。また、ジオフェンシングが搭載されたドローンでも、GPS機能を無力化すれば技術が使用できない。ドローンを違法で使用する人々にとっては、それほど“驚異的”なセキュリティ技術ではないことになる。

 またドローンを無力化する方法ではなく、ドローン攻撃そのものを避ける方法も考えられる。つまり、ドローンの侵入が確認された場合に、情報保護、対象隠蔽、操縦者の捜索など、さまざまな方法でドローンによる被害を下げる道がある。ドローンの攻撃対象そのものを保護したり、隠すことで被害を軽減するというものだ。ただその場合も、進入したドローンを停止する方法がないという問題が残る。特定の施設に対してテロが敢行されるケースでは、攻撃を軽減することは難しいだろう。

 今年は、ドローンがハッキングされ、違法行為の手段や道具になるという予測も増えはじめている。現在、考案されている方法の組み合わせ、また新たなソリューションを生みだし、効率的なアンチドローンシステムを考案することが、世界各国では急務となりそうだ。

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