ドローン普及の転換点は「事故率100万時間当たり2回以下」…米国は2020年頃

河鐘基2017年5月1日(月曜日)

「技術拡散点」という言葉がある。これは、とあるテクノロジーが社会に急速に拡散し始める時代的な転換点を指す。つまり、ある技術を研究者やいわゆるアーリーアダプター(Early adopter)のような一部の人々のみが使用、もしくはその恩恵を享受するのではなく、一般の人々にも広く普及していくターニングポイントと言い換えることができる。

 2017年4月、韓国省庁のひとつ未来創造科学部の傘下機関である科学技術予測委員会は、「技術が世界を変える瞬間」という資料を公表。その資料の中で、AI、ロボット、自動走行車、遺伝子治療など話題のテクノロジーが「いつ技術拡散点を迎えるか」という予想を立てた。そのうちのひとつに、ここ数年、日本でも話題になって久しいドローンに対する言及もあった。興味深い内容だったので、その概要を紹介したい。

 資料はまず、ドローンの技術拡散点は国によって異なることを示唆。次のように書いた。

「専門家たちを対象にドローンの技術拡散点をデルファイ調査した結果、米国では2020年頃、また韓国国内では2024年に技術が社会的に拡散すると予想された。(中略)その技術拡散点の定義については、『ドローン運用中に発生する事故率を100万時間当たり2回以下』まで下げられる安全運用技術(Safe-Operation Technologies)が完成した時点とした」

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 なお資料は、この文言の前段で中国DJI社製などコンシューマー用(ホビー用)ドローンが普及、市場を形成しはじめていることについては認めている。加えて、さまざまな産業において高度なタスクを処理できるドローン、すなわち「産業用ドローンが」が技術拡散点を迎えるためには、上記のような条件が必須だとした。

「ドローンが商業的に広く活用されるためには、安全性の確保のための基礎技術の完成が最も重要である。ドローンの事故は、設計および技術的欠陥、部品の欠陥、オペレータのミス、環境の影響などに左右される。(中略)ドローンの技術拡散点は、民間旅客機の事故レベル(米国2012年、100万時間当たり2回)を参照して定義した。安全運用技術には、テロの発生や大事故を防ぐことができる運用管理(OperationControl)技術も含む」

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 日本でも産業用ドローン普及の課題として安全性を第一に挙げる人々は少なくない。機体開発に携わる関係者のひとりは言う。

「ドローンが落下する確率は、一般の航空機に比べて驚くほど高い。人がいない特別なエリアは別として、市街地などで人の頭の上を飛ばすのはまだまだ難しいでしょう。正直、ドローン配送などはあまり現実味がない気が…。技術的な問題はもちろん、法律的な問題も横たわっている。ドローンでビジネスするとしたら、今の技術で何ができるかを真摯に考えるべきです。つまり、何かしらの課題を解決するためにはドローンでなくてはダメなのか、ドローンを使うとしたらどのような技術が必要なのか冷静に分析すべき。ドローンは空を飛びますが、“地に足がついた発想”が重要になってくると思いますよ」

 日本でドローンが技術拡散点を迎えるのはいつになるのか。その正確な予想とともに、“落ちないドローン”を開発する研究、また法律を含めた仕組みづくりがどう行うかが問われている。

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河鐘基

記者:河鐘基


1983年、北海道生まれ。株式会社ロボティア代表。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・運営責任者。著書に『ドローンの衝撃』『AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則』(扶桑社)など。自社でアジア地域を中心とした海外テック動向の調査やメディア運営、コンテンツ制作全般を請け負うかたわら、『Forbes JAPAN』 『週刊SPA!』など各種メディアにテクノロジーから社会・政治問題まで幅広く寄稿している。